第118話
「だから、お母さんのことも含めて、もう少しゆっくり考えてほしい。」
そう言って先輩は私の頬にキスをして、また頭を撫でてくれた。たった今プロポーズにも似た告白をしてきた癖に、ゆとり世代よりもよっぽどゆとりがある。
結婚となると、もっと現実的に、打算的に考えていかなければならないのだろう。ただ好きだとか嫌いだとかでは済まされない。
もうずっと前から私のことを好きだったと言ってくれている先輩は、私が六神と付き合っていた時、一体どんな気持ちでいたのか。
それを思うといたたまれなくなる反面、事前に結婚を視野に入れて欲しいとあえて告げる気持ちがなんとなく理解できてしまう。
もし先輩の告白をOKするのであれば、もう後戻りはできないのだと。そういうことなのだろう。
農政局と書かれた、古い5階建てほどの建物内に先輩と入っていく。窓口で、警備員さんに訪問時間と訪問内容を書くよう促された。
許可証をもらうと、小さなロビーを抜けた先に、証明書受取の事務所があった。中に入れば入口にはカウンターがあり、奥には20人くらいの職員がパソコンに向かって静かに仕事をしている。
「こんにちは。何かご用ですか?」
失礼ながら、おじさんよりもお爺さんに近いくらいの男性がカウンターの前に来てくれた。
その職員さんに、メールを打ち出した文書と名刺をみせた。
「
「ああ、申請おりてましたね。ちょっと待って下さいね。」
ジャケットに手を通す先輩が、私に小声で「落ち着きすぎた職場で眠くなりそうだね」と耳打ちする。
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