第117話

「で、今年駐在員希望者を募集する話も出てて、僕はそれに応募しようかと思っててね。」


「え、……そう、なんですか?」

 

「もちろん選考に合格しないとオーストラリアには行けないんだけどね。」


「……オーストラリアって、こあらとか、ティムタムとか?」


「あとリンツにUGGに」


「UGG、私持ってない」


「え?女子は必ず一足は常備してるんじゃないの?」


「それよく言われます」


「あとオーストラリアは今、エネルギー資源がきてるかな。」

 

「ああ、もしかして、水素とか?」


「うん。」



先輩には、自分の可能性を試すためにも、オーストラリアとの橋渡し役として支店を設け、成功させたいという野望があるらしい。



本部長になって各支部長に指示を出すような、上澄みをすくう仕事よりも、もっと泥臭い仕事の方が先輩にとってはやりがいを感じるのだとか。



課長になったのも、部長からの推薦というのもあるが、海外で働くための足がかりの一つになればと昇任試験を受けたらしい。



「だから、もし僕がオーストラリアに行くことになったら、いずれ春風にも来てほしいと思ってる。」


「……え、ええッ」 

  

「つまりさ、僕が言いたいのは、」



先輩が、私の手をぎゅっと握りしめる。そして気持ちを整えるかのように深呼吸をしてから、私を見据えた。



「結婚を前提に、付き合うことを考えてほしいと思ってる。」

 

「………な。」 

 

「…な?」



なんですと?



……いや、確かに。たしかに私の年齢で今から付き合うとなれば、結婚も視野におく必要があるのかもしれないけれど。



そんな面と向かってはっきり言われてしまうと。普通にプロポーズに思えてしまうのは気のせいだろうか。。

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