第116話
脳裏に六神の気怠そうな顔がちらついて、そんな六神の胸をたたき、意味もなく六神を責めた。
「ふっ…う"っ、」
責めれば責めるほど、六神が私から離れていく。
好きなのに。大好きなのに。
もうあっちにいってしまえばいいよ――――……
先輩が指で涙を拭いてくれて、ぎゅっと抱きしめてくれる。香水の香りがしてもおかしくない人なのに、爽やかな石鹸の香りがして余計にすがりたくなった。
「せんぱ、…わた、し、」
このまま、先輩の告白を受け入れようと思った。
私が今まで保留にしていたのだって、先輩にはよく分かっているはずで。私に、未練があることを。
それが分かった上でも私を好きだと言ってくれるのだから。
「…春風、今から僕の言うことを、聞いてくれる?」
「え…」
「このタイミングで話すことでもないんだけど、なかなか会えないからさ。」
先輩が私の肩を持ち、そっと離すと、私の髪の毛を耳にかけてくれた。もし私がスパダリに転生したら、好きな子に同じことをやろうと思う。
「僕はほんとはね、昇進よりもまず、海外に行きたいと思ってるんだ。」
「……か、海外?」
「うん。今オーストラリアに支店を置くプロジェクトが進んでてね、その前準備として駐在員事務所をオーストラリアに置くことが先月決まったんだよ。」
駐在員事務所は、海外進出の前段階として、現地調査を行うために設けられる事務所のことで、そこに駐在員を派遣するというものだ。
昔研修で、台湾への進出プロジェクトのプロセスを学んだことがあるのを覚えている。
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