第114話
じゃあその相手がなぜ私なのか。朋政先輩ならやりたい放題、は言い過ぎにしても、選びたい放題だろうに。
「……なんで、わたし、なんですか。」
「…え?」
「先輩くらい優秀な人が、なんで私を好きになるのかなって。」
先輩がどこかホッとしたように微笑んで、私の頭をふわりと撫でた。そのまま髪を滑らせて、また私の手に触れる。
「実来はさ、誰にでも突っ込んでいく癖に、その姿勢が適当じゃないんだよ。」
「え?」
「人に対して、ちゃんと誠実な向き合い方してる。」
「……そ、そうかな。」
“めっちゃ好き。”という砕けた言葉とは違って、ちゃんと理窟を通した言葉が出てくるもんだから、思わず面食らう。
「前さ、若い事務の子がミスして、部長に怒鳴られてたことあったじゃん。」
「ああ、忘年会で泣いちゃった、彦坂さん。」
「そうそう。」
当時、まだ一年目だった彦坂さんという後輩が、輸出先の港を間違えて船を予約していたことがあり、シップバック(出戻り)になったという事件があった。
部長が彦坂さんを怒鳴りつけ、たまらずその場で泣いてしまい、その後の忘年会でもずっと泣いていたから私がなだめたのだ。
「部長も部下のミスを背負って仕事をしていて、それをさらに背負っているのが支部長でって。実来は上の責任の重大さを彼女に説明してたよね。」
「……そう、だったかな。」
「頭ごなしに怒る部長も冷静になった時、きっともっとこう注意すればよかったと思えるはずだから、彦坂さんが自分の後輩に注意する時は客観的に注意できるといいよねってさ。」
確か三年ほど前の話だったと思う。私もまだ二年目の癖に先輩づらしていて、それが朋政先輩に見られていたかと思うととんでもない羞恥だ。
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