第113話

「先輩が部長になったら、皆悪いことできなさそうですよね。」


「なんで?」


「色々見透かされそうなので。」


「部長かあ。組合と敵対するのも大変そうだよね。」



けや木道を通って、農政局の門を通り、大きな木の木陰に車を停車した先輩。パーキングにレバーを入れて、先輩の手がようやく私の右手を解放する。



でも解放されたと思った右手が、再び先輩の手に捕まえられて。そのままさらりと運転席へと引き寄せられた。



「春風、」



寸手のところで、先輩の吐息がかかる。



気付けば、先輩にキスをされていた。



触れた瞬間、驚いて。引き寄せられた体勢から思わず離れかけるも。がっちりと腕と頭をつかまれて、逃してはもらえなかった。




「ん、っふ、」

「口、あけて。」

「ぁ"、」



そんな、生易しいものじゃない。朝見た、彼女が六神にしたものとは違う、濃厚で脳が溶かされそうになるキス。



先輩の舌先が冷やっとするのと、喉奥をまさぐられるような生温かさが、交互に私を翻弄する。


     

慣れてる、とかではなく。どこか動揺をひた隠しにするような劇しい舌先で。そんな先輩を突き放せない私は、されるがままそれを受け入れてしまった。




最後に私の下唇を甘噛みしてから、私を解放する。私を見つめる瞳は、あまりにも真っ直ぐで反らせそうもない。



「好きだよ。」


「っ……」

 

「めっちゃ好き。」 



砕けた言い方なのに、先輩の言葉がすんなりと身体に入ってくる。



こんなに真っ直ぐに想いを伝えられるなんて、やっぱりスパダリのスキルは計り知れない。

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