第112話

「実来、直球で聞いていい?」


「はい?」



少し改まったような口調になった先輩が、軽く息を呑むのが分かった。



「結婚についてどう思ってんの?」


「ぶっ」


「実来の歳なら結婚を考える女性は多いと思うんだけど。」


「け、結婚は、…もうちょっと後でもいっかなー。」


「それは、どういう意味で?まだ遊んでいたいとか趣味に没頭したいとか?」


「えっと。今は弟も一人暮らししてて、母が家で一人なので。私が結婚しちゃうとさびしいかなって。」


「……お父さん、亡くなられてるんだもんね。」


「そうなんですよ。もうちょっと家にいてあげたいかなとは思っているんですけど。」


「そっか。」



私の父親は私が中学3年生の時に亡くなった。珍しい潰瘍の一種で、病気が見つかってから2年のことだった。



それでも高校も大学も卒業しなさいと言ってくれた母。語学系の資格も将来必要になるだろうからと、外資系で働いていた父親の影響もあり取らせてもらった。だから少しでも長く一緒に暮らせたらと思っている。



えっと。今の先輩の質問は一体どういう意味なのだろう?



なんとなく気まずい雰囲気をかき消すように、外の有名なパン屋の列に目を向けて「凄い列、」と呟いてみる。でもシフトレバーを握る私の指を、先輩の指が擦るように撫でた。ぶわっと手の平に汗が噴き出す。



この人のアグレッシブさはたまったもんじゃない。



「で、こないだの電話越しの元彼くんはなんなの。」


「な、なんなんでしょう。。」


「まだ実来に未練たらたらなの?」


「いや、それはないですよ。だってあいつ彼女いますもん。」


「……それで邪魔してくるって。いい度胸してるよね。」



というか先輩、すでにあの時の通話を邪魔してきた相手が六神だという前提で話を進めてるのだから、なんの無駄もなくて話が早い。

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