第108話

「お前だって、いい彼女っていうか。いい女なんじゃないの。」


「へ。」


「事務職でも人脈できててさ。名指しで指名って。クライアントから信頼されてる証拠じゃん。」



自然と瞳孔が開いていく私。



六神が?仕事で私を褒めるって。



一瞬、目頭が熱くなって。出港準備の風がたち、自分の髪が頬にまとわりつく。



こんな風に褒められたの、いつぶりだろう。社会人になると褒められることは少なくなるから、仕事に対するモチベーションがお金しかなくなるんだよね。



人脈だなんて大袈裟だけど、もし六神の目にそう映るのであれば、それは私を取り巻く環境と、いい先輩に恵まれたお陰だ。



「対応力は、あれだよ、朋政先輩のお陰だし。」


「………」


「あの人新卒の時から厳しいからさ。あの人の基準に必死についていこうとしてただけだし。」



自分で言ってから、ここで朋政先輩の名前を出すのはまずかったかなと思った。六神に褒められているなら、お世辞でも六神のお陰と機転を利かせるべきだったかもしれない。やっぱり私はいい彼女には向いていないようだ。




「……そういや。付き合う話は、どうなったの。」



埠頭から出港を知らせる汽笛と、波の音が重なって聞こえ始めた。それでも今の六神の声は、しっかり聞き取れていた気がする。




「まだ、返事してない。」


「…そっか。」


「うん。」


「あとさ、これは冗談で言うんだけど、」


「ん?」


「お前、まさかと思うけど、池駒となんかあったりしないよな?」


「……は?」


「いやさっきコンビニの前で、やたらひっついてる男女いるなって思ったら、まさかのお前らだったから。」


「………あるわけないじゃん」


「だよな。冗談にもほどがあるよな。」


「もしあったらアルマゲドンと天変地異に見舞われるよ」


「どっちかにしとかないと宇宙人に迷惑だろ」

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