第106話

さっきコンビニで視線がかち合った手前、彼女の事実をスルーするのは逆に気にしてると思われそうだから、それとなく老後の文中に挿入してみる。



「わしはじいさんが羨ましいわい。じいさんは独り身じゃないから死ぬのも怖くなくてね?」 


「そうだな。でもまあ、ばあさんが死ぬ時は俺がいてやらなくもないけど?」


「でもじいさんが先に死ぬかもよ」


「うるせーばばあ」



両手でつかむスパムむすびを、ゆっくりと大事に食べ始める。ばばあの演技を掘り下げる私を見て、六神が咳払いとため息をかぶり気味に放った。



「……あのさあ、さっき、お前、」


「ん?」


「……いや。やっぱいいわ。」

 

「……」



“さっき、お前、俺の貞子見てどう思った?”



そう聞くつもりなのだろうと思った。



だから、ありのままの姿をありのままの自分で伝えることにした。



「……彼女、スタイルいいし、色白で綺麗で。でもなんか性格は可愛い感じの人だったね。よかったね。」


「……は?」


「あとこれは冗談だけど。ちょっと貞子みたいだなって思った。あ、冗談だよ冗談。」


「貞子亜種な。」


「貞子希少種じゃなくて?」


「まあ貞子自体がレアだけどな。」


「なんにせよ、うん。よかったね。」


「…なにが?」


「私みたいな元カノなんかよりもずっといい彼女そうで。」


「………」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る