第103話

「じゃあお仕事頑張ってね、ちと君。」


「…なんでわざわざここのコンビニで朝飯買うよ?」


「いーじゃん。送ってきたついでなんだし。」


「一応ここもうちの会社のテリトリーなんですけど。」


「彼女枠で、特別ってことでさ。ね?」



ね?じゃねーわ。いくら外に近いコンビニといえども、会社の敷地内は関係者以外立入禁止なんですけどね? 



コンビニの自動ドアから出てきた、六神とその彼女である清純派貞子さん。



池駒が、あちゃ~。なんて顔で頭をポリポリと掻いて、私はそんな池駒に険しい表情で睨みつける。



『あんなん見たって何とも思わないんだけど私』



見せないようにとしてくれた池駒に対し、酷い言い草だとは思う。でも素直になりたくない私は池駒を犠牲にするしかないのだ。



『いや俺らもカップルってことにしときゃいいぢゃん』



ハァッ?!



そうだ。池駒は迷惑顧みず、変なところでお節介を焼くタイプだった。平成ドラマの当て馬合戦を、まさかまゆゆがワンナイトした男で味わうなんて。



ほんと大迷惑だよ池駒!だってあんたなんて100%嫉妬されない安全パイなんだから。自分を買い被りすぎにも程があるっ!



私も池駒を、大概可哀想な扱いしかしていなかった。





「じゃあねーちぃとくんっ」 



貞子希少種が、六神に軽いキスをした。隙だらけの

その唇に。



「っ、やめろ水絵っ」



六神が彼女の肩を押し退けて。その拍子に六神と視線がかち合った。ヤツが酷く驚いた顔をして、早く私たちから離れさせたいかのように貞子の背中を押しやる。



貞子とのキスを目の当たりにしたことよりも、六神が“みえ”と呼んだその声に、みぞおちあたりがキリキリと痛み始める。心筋梗塞だったら労災はおりるだろうか。 


 

池駒が顔を引きつらせて、私に耳打ちしながら小声で言った。



『うっわ。他の社員いる中であれはないわ。』


『ねえ。ああいう強そうな女にも嫉妬するの?』


『恋人の評価を下げるような非常識は論外です。』

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