第101話

隣の池駒の耳には、いくつものピアスホールがあって、それが野球部時代の挫折を物語っている。



私はこういう、いかにもやんちゃそうな男に嫌われることが多かった。中学といい高校といい、派手な頭に着崩した制服の遊んでいそうな男子に、クラスの用事で話しかけても無視されることが多かった。



だから池駒と初対面の時も、きっと私は嫌われるのだろうと覚悟していたら、そうでもないから不思議だ。




「あ、俺一服してくから。」


「ああ。うん。」



敷地内にあるコンビニの前の喫煙所で、池駒が煙草を取り出す。



他にも喫煙してる人がチラホラいて、その中でも池駒が煙草を吸う姿はけっこう様になっていた。



私がまだフロアに行かないのを察して、けむりが私の方へ行かないようにと気を遣ってくれている。



このままコンビニの店内から流れる軽やかなインストゥルメンタルに乗って、まゆゆとのワンナイトを聞いてみようかと思った。ただのノリだったのか、それとも特別な何かがあってのことだったのか。



でも緊張の空気を吸い込む私よりも早く、池駒が煙草のけむりを吐き出した。




「俺、勝ち戦しかしたくないタイプだからさ。」


「……ん?」


「負けるとわかってる試合に参加できるほど、肝が据わってないってことよ。」 

 

「…………」



話の流れからどう考えても野球部の話なのに、それとは別の何かの話にも思えた。



何にせよ友達で同じ部署である私とまゆゆなのだから、大概の話は私に筒抜けだということは池駒にだって分かっているはずだ。

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