第96話

――――――……とまあネガティブな自分に浸っていたところに、運悪く貞子亜種に漬け込まれたわけで。




水絵は面白いおもちゃを見つけたかのように、俺を暇つぶしの恋人ということにしている。



もし俺が友人に、こちらが彼女です。なんて紹介しようもんなら、水絵は手を叩いて俺を馬鹿にすることだろう。結局俺たちは泣く泣くセフレみたいなもんになってしまっている。



水絵は心理学部卒業生で俺らの先輩にあたるらしい。学年が3つ離れているとはいえ、どこから探られるか分かったもんじゃない。やっぱりあんな大学中退しておくべきだった。


 


「はるかちゃんも同じ学部だったの?」


「…………」


「今はるかちゃんは何才?どこで働いてんの??」


「…………」

 

「…桐生君にこの画像見せちゃおっかなあ〜。」



無言の俺を探るのは無意味だと悟ったのか、早くも桐生を引き合いに出してきた水絵。



俺と実来が同じ大学出身だと分かれば、当然その接点である桐生に目が向けられるだろう。



本人に見せられるよりもいやだ。絶対にいやだ。




桐生と実来の直接的な繋がりは、多分ない…と思う。でも同じ中国憲法を履修していた実来のことを全く知らないわけではない。



なんせ質問魔の実来だし。あれは良くも悪くも悪目立ちがすぎた。



その中国憲法の授業を、桐生と隣で受けていた時のこと。


 

『あの子、見てて痛々しいけど顔はけっこうえろいんだよなあ。』



質問で授業を遮る実来に対し、桐生が言った言葉を未だに覚えている。


 

『目尻の切れ目がさ、なんか彫り深いしちょい垂れ目だし?ああいうのがころっと悪い男に騙されて痛い目みると、めちゃめちゃいい女に変貌したりすんだよなあ。』

 


200人収容の大教室でめちゃめちゃ見てるなこいつ。双眼鏡か千里眼でも使ってるのか。と隣の桐生を遠い目で見た。でも同じ男として、感じ取るものは一緒なのかと思った。

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