第95話

「てことは、この子も六神君も私と同じ大学だったんだねえー。」



完全に優位に立たれた。



その証拠に、水絵がゆっくりと立ち上がり、ゆっくりとベッドに膝をつく。手を交互について、俺の内側を侵蝕していくみたいに。



もう、脅されているも同然の状況。



 

せっかくあいつが繋ぎ止めた悪友関係が、今更なくなるなんて。俺には考えられない。



営業職なんて俺には絶対に向いていないと思っていたのに。ここまで俺が頑張ってこれたのは、全てあいつがいたからだ。奇跡なんて夢想めいたもんのお陰じゃない。



付き合えなくとも、このまま関係を保てるならそれで充分なのかもしれないと。



それこそが夢想めいているとでも云うのだろうか。



冗談じゃない。




「私をこの子だと思って、むちゃくちゃに抱きなよ。」



それならいっそ、この女の手の平に転がされるのが賢明なのだろうか。



分からない。



俺は一体、なんのためにここまでやってきたのか。




「抱きたいんでしょ?泣かせたいくらいに。」



上半身パジャマの水絵が、俺の膝の上に乗っかって。



俺のシワになったシャツのボタンを、上からゆっくりと外していく。



その指の動きに、目が奪われていく。




ただ一つ、この先も確かだと言い切れるのは




「ほら、私を呼んで。抱き潰しなよ。」




俺はお前が好きだということ…―――――




それが伝えられない俺は、目の前にいる幻想を抱くことしかできない。






「春風―――――――」

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