第88話
「ああ、彼女に悪いからむりーとかそっちの人だった?」
「……は?」
「それか好きな子がいるからって?意外と純情タイプだったり〜?」
「…………」
「へえ、後者なんだあ?いいよ、じゃあ私をその好きな子だと思って、その子の名前で呼べば。ふふっ」
俺とは思想だとか観念みたいなものが全くマッチしない人種だと理解できた。
だからやることといったら一つしかない。
「俺本位でいいなら俺は帰る。」
「えーマジしらけるー!てかこの状態で襲ってこないやつ六神君ぐらいだよ?」
「どんな低俗ばっか相手してんだよあんた。」
無理矢理水絵を退けて、ジャケットと鞄を取ろうとすれば、この女は育ちがよろしくないのか俺の尻あたりを足で撫で回し始めた。
「きゃー襲われそうなんですケド〜!って叫びながら私がこの部屋から出ていってもいんだよ?」
後ろを振り返れば、ベッドに座り脚を伸ばしながら雌のなまめかしさを象徴するかのような笑みを浮かべる貞子がいた。
さっきまでの大人しい水絵から変貌しすぎて原型が見当たらない。パーツは揃っているのに、いつまで経っても組立不可能なプラモデルみたいだった。
「……俺にこだわる理由は?他あたれよ。」
「私に興味なさそうだったから?そういう男を堕とすのが趣味なの。」
俺がこのまま帰れば、この女は本気で俺を引き留めようと何かよからぬことをするだろう。
寂しさを埋めるためなのか何なのかは知らないが、遊びに全力投球しているタイプだ。
じゃなきゃ、30歳手前にもなって、初対面の男を騙してホテルに連れ込むとかしないだろう。
「……理解はできない。けど、うん。あんたの扱い方は解読した。」
「まじ?私のトリセツこんな短時間で解読したの六神君が初めてー。」
目を爛々と輝かせる水絵を見て、“襲ってこないやつ”は俺だけじゃないけど、この女をものの5分で解読できたのは本当に俺だけなのかもしれないと思った。
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