第85話

早すぎる桜が咲き始めた今年の3月。

 


実来と別れてから約半年経った頃、久々に桐生から連絡がきたと思ったら、これだ。




『お前を餌に合コンする!



いえぜひ来て下さい。お願いします。』




もちろん俺は丁重に『NO』と返事した。でも桐生は引き下がらない。なんでも3歳上の彼女の友達に頼まれて、どうしてもイケメンを盛り込みたいということだった。



『不死原王子に頼めば?』


『アイツは目だけで俺をぶち殺す男だぞ?!女の子だと瀕死にさせられる!』


『よし、瀕死ならギリいける』


『そんなギリギリの状態で女の子に合コンさせんなよおにーさん!』 




桐生は今、地方銀行に勤めているらしい。



就活ではメガバンクの内定を貰っていたが、卒論の提出期限を一日間違えたおかげで単位を落とし、3月に卒業できず、メガバンクの内定が取り消しになったという英雄伝説が語り継がれている。




合コンには興味がなくとも、投資やNISAには興味があったし、桐生から話が聞けたらとなんとなく参加した合コンだった。だから別に、実来との別れた憂さ晴らしだなんて気はなくて。いや……



そもそもあいつは俺と、“別れましたけども。”と淡々と会社の人間に言ったみたいだが、俺からすれば、いつの間に俺たち別れたの?って感覚だった。あれはただの喧嘩じゃなかったのかよ、と。



だから俺はよっぽど嫌われたんだと思っていた。それなのに、あいつは勝手に別れたことにしておきながら、勝手に話しかけてもくる。



だから憂さ晴らしよりも、当てつけに近い。

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