第81話

と、思っていたのに。



私がそっと六神の瞳に自分の瞳を合わせれば、そこには見たこともないようなうれわしげな表情があった。



私と同じ視線にいるのに、六神がやたら私を見上げているかのような食い入り方で。



「……お前と絶縁なんて、無理だから。」


「……え」


 

いまのは、このひとの声ですか。



朋政先輩ではきっと出せないであろう、振動を感じさせないハスキーな囁きで。

 


「ほんと無理だから。お前が俺と関わりたくなくても、俺は関わりにいくし。」


「な、」


「ストーカー行為でもなんでも関わりにいくし。」


「    」 

 

 

声にならない私の今の状態を例えるなら、間違いなく絶句だろう。



「す、ストーカーは、犯罪でしょ。」


「うん」

 

「私の知っているすーぱー六神は、そんな粗悪品じゃない。」

 

「スーパーマーケットみたいにいうな」 



私の知らない六神を、また一つ経験してしまった。



私に甘えるみたいに見つめる六神は、私のどこかにある母性をくすぐるもんだから、胸のあたりがむず痒くて仕方がない。



触れたい。そのさらさらな黒髪に。



撫でて、「捨てないから大丈夫」って言ってやりたい。




「……な、に、言っちゃってんの。もう彼氏でもないくせに。」 

 


屈折している私で、ごめんね六神。好きだと言えるほどの自信を持ち合わせていなくて。


 

「うん。友達でも悪友でもなんでもいいから。」 



泣きながら『残酷な天使のテーゼ』を歌ってやろうか。



恋人以外ならなんでもいいから。って、そう言ってるんだよあんたは。

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