第79話

「ふざけんな!」



なんで私、六神の顔見れて嬉しいとか思ってんの?!


 

なんでなんで、私じゃ駄目なの?



ねえ六神、私がいいって。―――言ってくれないの?



無理矢理力を入れた拳で六神を払いのけて、来た道を進む。



このままラウンジに戻っても、みっともない顔をまゆゆに見せるだけだし。自分でもどこに行きたいのかなんて分からないけど。今はもうただあんたから離れたい。



さっきまで関わらない選択肢なんてないと思っていたけれど、今になってようやく学んだ。



離れないと、また私が勝手に沼っていくだけじゃん。

 



好きだけど断ち切らなきゃ


好きだけど嫌いにならなきゃ


一刻も早く朋政先輩を好きにならなきゃ

 


最初からこうしてつき放してればこんな思いなんてしなかった。



別れた時にしつこくより戻そうってお互い詰め寄ってたら、今頃私たち―――だなんて。考えることもなかった。





「嫌いじゃない。」



後ろから引き留めようとする、抑揚のない声。



そんな否定か肯定かも分からないような言葉で立ち止まるほど、安い女にはなりたくない。



「お前と絶縁したくないから関わりにきた。」



早く歩いてるつもりなのに、なんでかな。



あんたの声がこんなに近くで聞こえるの。


  

「なあ、待てって。」



ついには肩を触られて、私はそれをはね退ける。



「ふざけんな!は、こっちのセリフだし、」



私を煽ろうったってそうはいかない。



言い返してなんかやんないんだから。

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