第77話

「…………うざ」



六神の小さな暴言が聞こえて、つい私が『ちょっと待ってっていってるでしょ!』と威勢のいい蚊が鳴くような声で反論してしまった。



『……ねえ春風、』


「は、はいっ?!」



慌てて先輩の声に耳を傾けるも。




『好きだよ』




―――――……私のこの状況を知ってのことか。

 


なんていじわるなしぇんぱい。




『僕は誰かさんみたいに待てが出来ないほど幼稚じゃないからね?』


「なっ」


『ちゃんとお利口に春風の返事を待ってるよ―――』 



  

異常なくらいうるさい鼓動からの警笛。


 

なにがなんでどうしてこんな状況に―――。




『またね、未練がましい誰かさん。』




先輩のその一言を最後に、通話は切れてしまった。


 



そして、私の通話中でも通話後でも平然と話しかけてくる六神は。




「……は?付き合ってんじゃないの?」



などという。



お前の用事なんてお構いなしとでもいうのかこの野郎。



「なあって、付き合ってないの?」


「な、なにが」


「え?は?まだなの?保留中ってやつ?」


「……だ、だったらなんなの。」


「ふうん。」



私の耳から離れた六神が、冷めた目で窓を一瞥する。



で、まるで窓の奥に何かあるのかと思うほど睨みを利かせたと思ったら。



あっという間に、何事もなかったかのように、えらそうな態度で上からものを言う。




「……で?なんで無視んの?俺のこと嫌んなった?」




そっと顔を見上げれば、いつもの六神がそこにいて。



会いたい時には来ないくせに、なんだってわざわざ忙しい時に話しかけてくるのかと反抗の眼差しでお返しする。

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