第74話
『実来?生きてる?』
「はい、生きてます。」
『こっちの仕事急にふってごめんね。今東京港満船でさあ。』
「いえ。先輩の方こそ大変でしたね。」
内線よりも、穏やかな先輩の声。
油断すれば、つい身を委ねそうになってしまうような。
『で、心優しい先輩からの埋め合わせの件なんだけど、』
「ああ、そんないいですよ。仕事なんだし。」
『……って、なんか元気ない?』
「え。」
『老いた死神の声してるよ?』
「…そんなことないですよ!ひどいなあ先輩!」
自分では、気持ちを切替て電話に出たつもりだったのに。
声だけでばれちゃうなんて、よっぽど酷い状態なのかな私。
でもプライベートの先輩の声って。吐息の切れ間に色気を含んだ、ベルベットボイスのようで。
柔らかくて心地いいから、自分を上手く繕えないのかも。
『ねえ、春風、』
「……えっ」
『覚えてる?僕たち前世で約束したよね?生まれ変わったら一緒になろうって。』
「ぶっ、」
『ああ、なんだかお腹が空いたな。よければ君が僕を満たしてくれない?』
「お腹って。じゃあ何か食べて下さい。笑」
『ASMRイケそうじゃない?』
「濃いめのマニアにはうけると思います。」
『乙女ゲー的な?』
「そうそう、それ」
先輩はなんだかんだいって優しい。
特に、二人きりの時には。
『乙女ゲーはおいといて、』
「自分からふっといて。笑」
『…それで、農政局から申請おりた後なんだけど、』
先輩のベルベットボイスが、瞬間的に途切れる。
細長い窓ガラスには、スマホを耳に当てる私と、遠近法により遠目に映る、六神の姿があった。
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