第68話

でも今年の誕生日は違った。横浜支店に視察で来ていた先輩に、たまたま暇ができたから何か食べに行こうと誘われ、裏通りにぽつんとある小粋なワインバルに連れて行かれたのだ。



サングリアでほろ酔い気分の中、「なんで先輩は私にだけ当たりキツイんですかー?」と聞いてみた。


 

ベージュのスーツに身を包み、アッシュブラウンでサイドパートの前髪をかき上げる先輩が、満面の笑みを見せこう言ったのだ。




「生理現象として、好きな女性は虐めたくなるから!かな。」

 



うぬぼれ気味の私が、「後輩として一番信頼しているから。」と予想していた答えをすんなり超えてきた。



あの時の私の心境は、孫◯空の如意棒が、ある日突然使われなくなってしまった時の喪失感に似ていた。なぜドラ◯ンボールZでは存在自体が消えているのか。



つまり優秀な先輩に、後輩として一番に認められていると思っていた信頼の壁が、一気に取っ払われてしまったのだ。



その心境の中で、あのブランドものの腕時計をプレゼントされれば、まさに豚に真珠状態だ。



私にとっては仕事上の先輩でしかなかったのだから、六神と付き合っている時に二人でご飯を食べに行ったのだって、負い目みたいなものは一切感じなかった。



六神はあまり自分の話をしないから、私もわざわざ先輩とのご飯を言う必要はないと思ったし、それをよく思わなかったのであれば、直接言ってくれればよかったと思う。



まあ、今更何を言ったところでどうにもならないのだけれど…。

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