第58話
「どこで買った?」
「……えっと、」
「なんか、時計だけやたらブランド臭くて浮いてるってゆーか。お前に見合ってないってゆーか。」
見合ってない?
なにが?
六神のその一言は、腕時計が良いものすぎて、私が時計に見合っていないと言われているように感じた。
一度途切れた着信音が、再び鳴り始める。
私、六神にも見合ってなかった?
確かに六神は有能な営業マンだし、外見も清潔感も申し分ない。
ふと、日本男児を絵に描いたような六神と、黒髪ストレートの清純そうな彼女を隣に並べてみた。
誰が見てもしっくりくる、お似合いのカップルだ。
私も髪を伸ばそうかと悩んだこともあったし、女っぽくタイトスカートで出勤しようかとも考えたことがある。
でも私にはどちらも似合わないのだ。まさに“らしくない”スタイルだった。
着信音がけたたましくなる中、私はそんなことを考えていた。
腕時計よりも彼女からの連絡に気を取られ始める六神を見て、自分の惨めさが早くも露呈しかけている。
無音のため息を吐いた六神が、ついに「ちょっと、悪い。」と音を上げ、いたたまれない姿の私から退いた。
それをきっかけに、私もこれみよがしに腕時計の真相を伝える。
「時計、もらったの。」
「え?」
ちがう。
あんたを引き止めるつもりで言ったわけじゃないから。
「これ。私、こないだ誕生日だったから、もらったの。」
ただの、対抗意識だ。
「…え?」
「朋政先輩がさ、誕生日だからってくれたんだー。」
「…………」
彼女の着信音にすら敵わないとか、彼女に対するものじゃない。
それくらいあんたを虜にできる彼女がいるあんたへの、対抗意識。
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