第56話

「か、かのじょに、わるいって、」



細やかな抵抗に出て、六神を試す私はそこそこ面倒な女だ。



「ほんとーに悪いとおもってる?」


「あッ、」

  

「ここすごいんですけど」



でもすーぱー六神には通用しない。



六神の長い指がショーツ越しに這わされて、私の聞き分けのない身体が、悔しくも反応する。 



「こわいの好き?それかきもちいだけのやつ?」


「んん"、」


「ちゃんと俺みていえって」


「や、だめむがみ、」


「だめ。むがみのおなまえなんですか。」


「ふふっ」 



腕時計をする手首をぎゅっと捕まれて、そのまま六神の瞳に自分のだらしない顔が映し出される。



「ち、とせ」


「…ん?」


「ちとせ、」


「よし。」


 

それを合図に、六神が不意をつくようなキスを一つする。



こんなに間近で迫られたら、誤魔化しようがない。反らせない、逃げられない。見透かされるような六神の瞳にすら、私は虜になっていた。


 

「狂わせてやろっか」


「なっ、キザすぎて、なんか変!」


「もっとカッコつけろってゆったのどこのどいつだよ」


「え、わたしそんなことゆった?!」 


「ゆったー」



何一つ覚えていない私。



あれ。



もしかして、もしかしなくとも



「私たちあの時、し、しちゃってた…?」



そうだとしたら、悪者は完全に私一人だ。


 

でも六神は、私の記憶を探す旅などお構いなしに、宣言通りの狂わせるようなキスをする。



息継ぎも絶え絶えに、部屋の空気も取り込めないほどのふかいキスを。



噛みつくようなそれじゃない。じわじわと汗ばむような、私の唇に深く深く刻み込んでいくのだ。

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