第55話

「あなたのおなまえなんですか。って聞くからさー、ちとせですけど。ってゆったんですけど」



やたら粘度の高い吐息が、私の鼓膜まで振動させるのに、六神の喋り方が稚拙すぎて。それが余計に私の我欲を煽っているかのようで息苦しい。



「じゃあ今日からはるかは、ちとせってよぶね?ってゆったのおぼえてねーとか。はくじょうなおんな〜」


「は、はいっ?」

 

「薄情なはるか〜」

 

「ふっ、」



耳たぶを軽く噛まれて、耳の中に六神の舌が入ってくる。



粘度の高い、蠱惑的で稚拙な舌先が。



「なんでかな〜、なんでおればっかあんな思いしたんかな〜」


「ちょッ、む、」


「む?」



私を操り弄んでいるかのように映る六神は、なんで私なんかと付き合おうと思ったの?



私を元カノだって認めてるってことは、少なくとも私のどこかに惹かれてくれたんだよね?



別れたのに、どうして私たち繋がっているんだろうね。



お互い、付き合っている時に満たされなかった欲が多すぎたのかな。



思えば、「好き」の一言ですら互いに発することもなくて。



反省点がしばらく経たないとみえてこないなんて、男と女という生き物は実に上手くできている。



それがこうして、また違う関係になろうとしているのだから。男も女も馬鹿な私欲的生物だとつくづく思う。




六神にシャツの真ん中あたりのボタンを雑に外されて、生温かい手が、私の波うつ心臓をつかまえようと入ってくる。



あ、器用なやつ。ズボンのホックも外された。

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