第54話

「らしくない…」 


「ぐっ、苦しんですけど!」


「なんかその時計、おまえらしくないっ」


「あ"の、聞い"てますか六神様?!」



男は馬鹿なくらいがちょうどいいと誰かが言っていたけれど、何がちょうどいいのか具体例を上げてもらいたい。



今にも私を殺りそうな六神が、今度は両腕を使い私を抱っこするように持ち上げた。こんな西口プロレスのようなシチュエーションは、一寸たりとも期待していない。 



「ちっせーのに重っ」

「なら降ろせっ!」



182センチの男の前では、157センチの女の抵抗も虚しく、前向き抱っこという羞恥を与えられながらベッドに直行されてしまうのだ。



あああぁぁー……

  


酔っていないはずの女は、こうして酔っているはずの大好きな男にずるずると引きずられてしまい、きっと明日になれば惨めな自分と戦うことになる。



それが分かっているのに、今という時間だけでも愛されてしまいたいと願ってしまう私は、馬鹿でちょうどいい女なのかもしれない。



気付けばベッドで、そのまま六神にうつ伏せで上からのしかかられていた。


 

「けいせいぎゃくてんー」

「へっ?」



重いのに、私の手の甲に大きな手で上から繋がれるから、鼓動が何度もベッドのマットレスに反発する。

 


でも六神に私のようなドキドキはないのだろう。



腐っても鯛、酔っぱらっても六神とでもいうべきか、いつもの悠長な様子であの時の話を掘り返す。



「あん時は まっぱのはるかがだきついてきてさー」

 

「……は」

 

「おれの上にまたがって〜、なんてゆったとおもう?」 



う、うそ。。



ま、またが……?

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