第53話

六神のアパートに着けば、一緒に降りようと手を強く引かれて降ろされた。



車中での手繋ぎは、私にこのままタクシーに乗って帰らせないための拘束だったのか、躊躇する暇も与えられなかった。うぬぼれるって楽しくて恥ずかしい。



でも結局この男はフラフラだから、私が肩を貸し支える形になるのだ。残念なことにスーパーダーリンには程遠い。



虚ろな瞳で、夜の暗闇にも美しく映えてしまう六神は、今にもぽっくり寝てしまいそうだ。



“眠りの森の六神様”なんて言おうもんなら、きっと六神は「俺を植物人間にするな」と月曜朝イチに内線電話をかけてくることだろう。



ああ、このまま寝てしまうのか、それとも普通にお風呂に入って歯を磨いてから寝てしまうのか。きっと朋政先輩のようなスパダリなら、高確率で玄関で噛みつくようなキスをかますのだ。

  

  

私は何を期待しているのだろう。



夜風で頭を冷やすべきだ。




六神の部屋の前に着けば、先程居酒屋で鞄を漁った時に見つけた鍵でドアを開けた。とりあえず六神のブランドものの鞄を玄関に置く。



深夜のドラマには間に合うかと自分の腕時計を確認すれば、12時を回ったところだった。腕時計の針がゴールドだからか、暗闇でもばっちり読み取れることに思わず「おおっ」と感嘆の声を上げた。



すると私の肩に腕を回す六神が、私を絞め殺そうと首回りに腕を絡みつけてきた。

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