第52話

六神の腕を自分の肩に回し、外に出るとタクシーが数台停まっていた。



きっともう、私は朝まで帰れなくなる。



酔っ払いの六神はどういうつもりで言ってるのか知らないけど。



こんなの傍から見れば、何されても文句は言えませんけど?って言われてるようなもんだし、私もそれを承諾しているようなもんだ。



タクシーの中では、六神が私の手をゆるく握ってきたりなんかして。



フラグでしかない。



運転手からみたら、私たちがどういう関係にみえているのか。まさか別れた二人だなんて思いもしないだろう。




「おれってさ、」


「な、なに」


「すーぱーだーりんだった?」


「……はあ?」


「おまえとつきあってる時のおれって、すーぱーだーりんだったかって。」



いい緊張感の中、何を聞いてくるのかと思えば。



六神のいうスパダリことスーパーダーリンは、どうも意味を履き違えてるらしい。



スーパーダーリンはきっと世間一般の無双エリートを指し示すものであって、決して彼氏のことだけをダーリンと言っているわけではないのだと思う。



「す、スーパーダーリン、というよりは。すーぱー六神?」


「ぶふっ」



六神がめずらしく噴き出す。



「それ、略したら、すぱむになるんですけど」

 

「…あーそういえば、ファミマでハワイのB級グルメフェアやってたなぁ〜」



私の声は裏返っていた。



もし明日の朝、スパムむすびが用意されていたら、これから起こることは全て新喜劇で片付けられるかもしれない。

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