第51話

「しっと?」


「ちがうって。私が…送ってったらさ、彼女さんに、悪いじゃん」



涙まじりの声になったこと、六神に気付かれてないかな。



器用じゃない私。背伸びしようとしても、確実に不器用にしか生きられない私。



六神の膝上にスマホを落とし、手首を振りほどく。



「帰る」



こんなお店の待合スペースで痴話喧嘩みたいなことしてても恥だし迷惑だ。さっきの騒がしいおじさんたちといい勝負じゃん。



居酒屋の格子扉をスライドしようとした。



でも、外の冷気に誘われるよりも、背中に感じる温かなそれに、どうしようもなく私は躊躇してしまう。


  

「う・そ。」



六神の冗談めいた声が、私の鳴かないフラットシューズを引き止める。



「みらいがいいから、送ってって。」



必死こいてない、気だるそうな声で。



「みらいはるかが、いいから。」



嫌味で余裕な六神でしかないのに。そんな甘えたこと言われたらさ。



無理じゃん。そんなの。




「…………今更、おそい。」


「うん。俺がばかだったし、お前もばかだし」


「……」


「まあ?どーしてもいやっていうなら?」


「……いや、……じゃ、ない。です、」


「だろーなあ」


「……」


「あれだけおれに迷惑かけておいてー、おれが酔ったらかえります、なんてさー」


「……」



そういうことじゃないんですけど。



そこまでは口にしなかった。

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