第49話

「ちょ、なにしてんの六神っ」


「おいてくなし」


「は?」


「おれを おいてくなってーの」


「……」



う、わ。



腕まくりによりくしゅっとした白シャツが、中途半端な位置で留まっているのを確認できた。



その乱雑そうなシャツから伸びる腕が、少しだけアルコール反応により染められていて。



その腕に触れられた箇所がやたら熱い気がして、わざとらしく「熱ある?」なんて聞いてみたり。熱あるのはどっちだ。



「ちょちょちょっと、離れてよ」


「どきどきしてんね」


「は、はあ?」


「ぜってーいま、みらいはどきどきしてる」



なに言っちゃってんのこいつ。大当たりだよちくしょう。



腕を引き剥がそうとするも、六神がよろけるせいで剥がせられない。



さすがに別れてからというもの、ここまでの密着はなかったから、私も翻弄されるあまりよろけそうになる。



「ちょっとまっ!ただでさえでかいあんたに寄っかかれたら私しぬ!」



半ば大げさに六神を突き放し、レジ横の長椅子に座らせた。



「ったく、彼女に迎えにきてもらいなよ!スマホだしてスマホ!」


「……zzz」


「ちょっと!っもう」



刈谷と同類語の「っもう」を出したところで、六神のズボンを容赦なく漁らせてもらう。その間にも店員さんが「あの、こちらお忘れではないですか?」と六神のかばんを持ってきてくれた。



「まー手のかかる六神ちゃんでちゅねー」

「ちゅんちゅん」

「はいはい。」



どうもポケットには入っていないらしく、今度は勝手に六神のかばんの中身を漁る。



ネイビーのボッテガのビジネスバッグとかふざけてるな、と舌打ちをしたところで、ようやくスマホを取り出した。

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