第44話

そう言ってすぐに切られた。



いつもより声色が、なんていうか甲高い上に若い。女の勘ってこれだから恐怖でしかない。



スピーカーにしていなくとも、言葉の端々は届いていたのだろう。実来の耳に。


 

「え〜、あれあれ〜」



実来が、スマホ画面を見る俺の手の下から覗き込んできた。奥二重の色素が薄い丸い瞳。嫌味ったらしい顔してんのになんでか糞かわいい。


 

「今のって、もしかして??」



この数秒で色々悩んだが、ある意味これって、実来の嫉妬を煽るためのいい作戦になるんじゃないのかと思った。



「もしかしなくとも彼女。」


「きゃー!おめでとう六神!」


  

きゃー!ってなんだ。長年片思いしてた女友達の恋が成就した時のやつでしかない。



「へー告ったの〜?それとも六神が仕向けたの〜?」



今お前に仕向けてるんですけど。



元カレの今カノ宣言にきゃーきゃーはしゃぐ元カノ。ふーん、なんかムカつくー。



「どんな娘どんな娘?二次元?三次元?」


「二次元てなんだ。今の通話はChatGPTか。」


「えー何歳?女の子?男の娘?かわいい系?きれい系?」


「29歳女のアラサー、綺麗系で強そうな毒時々エスパータイプ。」

 

「うっそ?!どっちかっていうと年下で可愛い系の声だったじゃん!」



年上で可愛い声とか萌えるわー。という実来にムカついた俺は、スマホに入っていた彼女の画像を見せつけてやった。



口端を小さくあげて顔を20度傾けた、黒髪で一見清楚な彼女の自撮り画像。勝手に俺のスマホで撮りやがって。加工を使わないアラサーの荒技にいやでも尊敬の念を抱くやつ。

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