第32話

六神が信じられないといった表情で私を見上げ、それを見下げる私。立ち位置はそこで合ってんのかお前。と、今となっては悪友となった六神の顔で睨まれる。



「なにしてんのお前。」


「へ?」


「げろまみれのお前をうちまで引きずってきた俺の苦労は?」


「う、そ。」



六神が膝に手をつき、ゆっくりと立ち上がる。



“自分大好き”という言葉を省略した“臭”さは、どうやら私の間違いだったらしい。“自分のまいた種は予想以上に大きい”を凝縮したものだった。



聞けば、片っ端から普段飲まないアルコールを摂取した私は、居酒屋で思いきり吐いたらしいのだ。ズボンまでびちゃびちゃになるくらい。



六神は居酒屋にいたお客さんたちに謝罪し、お店の店員さん、店長さんにも頭を下げ、すぐに私を抱えながら逃亡。



難易度強のダンジョンを無事脱出した二人は、あまりのにおいにタクシーに乗ることもできず、近くのラブホに突入。しかしなんと金曜日とあってか、すでに満室だったそうな。




とりあえずコンビニでタオルとTシャツを購入し、外にも関わらず私の身体を拭いて、上のシャツだけTシャツに着替えさせたという六神。



そんな六神は、なんでも面倒をみてくれる世話焼きのイケメンダーリン。ではなく、介護をするベテランワーカーのようだと思った。



ひたすら「ごべんねごべんね」と平謝りする私とベテランワーカーがようやくタクシーに乗り込むも。当然運転手さんには窓を全開にされたという。

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