第29話

晴れてお日柄もよく、彼シャツ姿になった私。もそりと布団から出て、六神と二人、なんでもない時間を過ごした。



「…そういや課長に、お前来期異動あるかも。って堂々と匂わせ発言されてさー」


「“堂々“と“匂わせ“って対義語じゃない?」


「そこくるか。国際営業部って海外イッタっきりなんてのも聞くから、」


「うちの海外赴任はハイパーレアだよ?モンゴルの大草原を一週間完徹で彷徨ってもお目にかかれないくらいの。」


「あとユニークスキル保持者とか?」


「そうそう。あ、しそ漬たくあんかじりたい。」 


「春風のユニークスキル、塩分過多によるむくみ発動」

 


隣に並んで座っていた六神が、私の頬をムニッと、つまんでみせた。



「え?うそ?顔、むくんでる??」


「昨日あんだけつぶ貝キムチつまんでればなぁ」


「………」



ハニートラップ目論んでる女でもキムチ食べるのか。



今度は反対の頬を、自分でムニッとしてみせた。そしたら多分、ユニークになった。



かなりChatGPT並みの会話を装おってみたけれど、異動のくだりで、実は内心ドキッとしていた。



海外赴任はないにしても、他府県への異動は充分にあり得る。中小相手に戦ってきた初級ハンターは、3年目にしてすでにエンゲージメントのゲージが満タンなのだ。



わざわざ課長から打診(仮)されたということは、きっと異動というのは濃厚。そして私がみてきた例にならうのであれば、彼は出世街道のスタート地点に立たされていることになる。

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