第22話
今、目の前で酒に溺れているのは六神だけど。
実際あの日、あの時あの場所で、別れる原因ともなったのは、酒に溺れた私でした。
23歳の初秋。国際営業部一課の朝礼で、うやうやしい姿の六神千都世が現れたのを思い出す。
六神は中途採用で、入社当時は一課の所属、つまり私と同じ空間を共にしていた。
その六神を見るなり、女性社員のみならず、男性社員までもが色めきだった。
六神は見た目が日本男児だ。西洋感を匂わせるえげつない目鼻立ちのキンパヤローとは違って、黒髪にほどよい浅黒の肌、スーツから伸びる手の甲は、ごつごつとした骨筋が約3割隆起している。
特に上司や年上から好印象で、道を歩くおじいちゃんおばあちゃんにもたまに声をかけられるらしい。
そんな大和魂を抱えていそうな六神の一番の特徴は、目の下にある涙ぶくろだ。昭和の時代からアイドル様には必ずあるといわれている、あの涙ぶくろ様。
今やこぞって影をつけ、塗装を重ねてようやく生みだされる涙ぶくろが、ヤツには切れ長の一重とセットでお得についているのだ。私からしたら課金してでもつけたいオプションなのに。
学生時代、同じ大学、同じ学部だった私たち。
六神が一課の先輩営業マンからの引継中、先輩がトイレに立ったタイミングで。六神の顔を見るなり、「久しぶり!」の代わりに「その涙ぶくろひとつください。」と、私から声をかけたのを覚えている。
といっても、学生時代の私たちに甘酸っぱい思い出はなにもない。少なくとも私は、しつこいようだけど、こんな涙ぶくろのヤツ居たなあぐらいにしか思わなかった。
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