第20話

そんな刈谷が、ふて寝に走る六神を尻目に、私をじっと見つめた。 



「ぱるるんって今でも本部のスパダリさんと繋がってるの?」


「…スパダリ?なにそれ?」


「スーパーダーリンの略だよ?」


「……」


「ほら。イケメン高身長でイケメンのー、ほらほら、スパダリさんっ。」


 

「ああー…、東京本部の、朋政ともまささん?だっけ?」



たった三つのワードで答えを導き出した大輪田くんに、「多分それそれ」と手を叩く刈谷。

 


「ぱるるん、よくスパダリさんと連絡取りあってるじゃん。」


「職場で取りあってるだけじゃん。」


「でもこないだの夜、二人で飲んでなかったぁー?」


「わざわざ本部から来た上司の誘いは断れないでしょ。」



朋政ともまさ先輩は、私が入社当時、教育係として私とまゆゆについてくれていた先輩だ。二年前に東京本部の国際営業部に異動し、今では31歳にして課長の位置に就いている。



コンテナ不足で、船の遅延が続いている横浜港への視察に来たというだけで、たまたまその日の夜、たまたま暇だった私と飲みに行ったというだけ。だ……。




「…え、なに。刈谷さん、朋政課長のこと狙ってるの?」



大輪田くんが、平然を装いつつも、意味深長にそう聞いた。



酔っていないはずの大輪田くんの今の声、いつもより確実に張っていたし。左ききの大輪田くんが、右手に箸を持ち替えたのを私は見逃さなかった。



「え?“ともまささん”て、だれ?」



頭にハテナを置く刈谷。で、頭にハテナを3ダース並べる大輪田くん。


 

刈谷の中では、すでに“スパダリさん≠朋政さん”なのか。わざとボケているのか、天然なのかは分からないけど。うん、なんとなく大輪田くんが刈谷に気があるんじゃないかというのは理解できた。

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