第14話

隣の酔ったオジちゃんらに、「合コンかあ?!若いうちに楽しんどけよぉ!」と野次を飛ばされるも、私がすかさず「いえ、ただの顔見知りの相席でーす。」と笑顔で返しておいた。



「すぐお前は酔っ払いに絡む」

「絡んできたのは向こうだし」

「酔ったお前はアレよりもっと激しいけどな」



六神が私の顔も見ずに、ドリンクのメニューを渡してきた。



激しいとか言うなや。



と心の中でツッコミをいれたところで、大きく手を振り、店員さんを呼んで、可愛く「カシスオレンジでえ」と注文をする。



「珍し〜ねぇ、ぱるるんが“生”頼まないなんて。」

 

「今日は深夜に見たいドラマあるし、あんま酔いたくないからね。生頼むと止まんなくなるからさ。」



隣に座る、私を“ぱるるん”と呼ぶ女史、刈谷かりたにがジョッキを両手で持ち、不思議そうに、こてんと首をかしげ見上げた。



その刈谷のネイルには、どうやらクマのキャラクターが住んでいるらしい。自由きままで不思議な国のクマさんが。


 

「カシスオレンジとか学生限定だから。実来が頼んでも、かわちぃにはなんないからな?」



目の前に座る六神が鼻で笑って、その鼻につく笑いが隣の池駒へ、そしてもう一人の同期である大輪田おおわだくんへと伝染うつる。



私が六神に向かっておしぼりを投げつけると、一番遠くにいる大輪田くんが言った。



「すごいな、六神のメンタルと実来さんのメンタル、うまい具合に比例してる。」


 

「常に右肩上がりでな」

「右肩下がりでしょう」


 

今にも線グラフに表しそうな大輪田くんはさておき。



六神が、私が投げつけたおしぼりでなく、自分のおしぼりを渡してきた。



自然に。



こんな小さなことにも、心の中で大きくニヤつく自分がいる。




と、話を戻すと、ここにいる同期は皆、私と六神が付き合ってたことを知っている。なんなら社内の約7割は知っていることだろう。



むしろ、付き合っている最中の方がずっと隠し通せていたと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る