第21話 灼熱地獄と極楽万花
プラネタリウム内からの戦闘音を聞きつけた俺は、姉と共にプラネタリウム内に突入しようとする。その時、プラネタリウム内から物凄い熱源を感じたので、事前に抵抗するための魔術を構築しておく
「
プラネタリウムに突入したと同時に、事前に構築しておいた魔術を発動させる
怪物から発せられる灼熱を魔術によって調和する。熱い炎に冷たい炎をぶつける…風で熱を分散させるよりもこっちの方が有効だ。完全に調和できるわけではないが、常識的な温度にならキープができる
「お前ら、なんでいるんだよ」
プラネタリウム内での戦闘音は聞こえていたが、まさかこの2人だとは思っていなかった。発端はラルラだな、そうとしか考えられない。あいつの好奇心を舐めていた
「ごめん、なんか、わたしたちあれに追われちゃって。仕方なく戦った」
そう言ったカゲリは両膝を地面につけており、息も上がっていた。魔力は余裕ありそうだが、どちらかというなら体力が底を付いたのだろう。大方、まだ鍛え始めたばかりで体力の消費の激しい戦い方をしたのだろう
カゲリは動けそうにない、退避は無理だろう。まあ、元々あの怪物はこの場で確保する予定だから退避の必要はないのだが…アレ、ほんとに確保できるのか?
天井に張り付いている水銀と思われていた怪物は、その姿を赤黒く変質させ、その体温は上がり続けている。その影響で、怪物が張り付いていたプラネタリウムが解け始め、怪物が床に落下する
「GuuuuuAAAAAAAAAA!」
俺の魔術によって床は天井よりも冷えている。そのため、底が溶け落ちることはないが、俺の魔力にも限界はある。相手の体温が徐々に上がっていることもあり、術の冷気を強くしなければならず、相対的に魔力の消費も上がっていく
そして、俺はこの術式を維持して継続的に発動させ続けるために動くことができない。つまり、あの怪物を実際に確保しなければならないのは、我が姉の役目というわけだ。手柄大好きなリソウにとっても自分で確保した方が都合がいいだろう
「あれが、目…標?」
リソウは怪物を凝視して何か疑問を浮かべている。あれでも大学のエリート研究員なのだ、疑問に思う何かがあるのだろう。だが、俺にはそんな余裕はない
「さっさと確保しろ。術式の維持、普通に辛いんだよ!」
「もー、仕方ないな。それじゃあ、さっさと確保しますよ」
リソウは怪物の前に立ち塞がり、ゆっくりと怪物に近づいていく
俺から離れれば離れるほど周囲の温度は上がっていくはずなのに、わざわざ俺から離れて怪物の方に寄って行ったのだ。きっと、俺たちが戦闘に巻き込まれないようにだろう
確かに、功績や尊敬が大好きで手段を問わない一面も確かにあるが、それでも、リソウは俺にとっての「姉」でいてくれる。相談は聞いてくれるし、困っていると知ると影ながら助けてくれる。そして、なにより、リソウは誰かを守れる力をもっている
より明確な言葉にするのなら、リソウは強い
「暑くなってきたな~。さっさと終わらせますか」
リソウは怪物の目の前で足を止め、崩れかけている怪物の顔と呼べる部分に目を向ける。いつも通りの緩いポワポワした笑顔…
怪物は、溶け落ち行く身体を獣の如く本能のままに動かし、リソウに攻撃を仕掛ける。溶けた爪を針の形として、リソウの喉を貫こうとする
しかし、リソウは余裕そうに手を後ろ結び、両目を閉じた状態で、その攻撃をフワッとした軽いジャンプで横に回避をし、反撃として魔術を発動させる
「
そうリソウが魔術を唱えると、紫色の氷の槍が地面から生えてきて、逆に怪物の身体を貫いた。そして、その氷は怪物の熱で溶ける様子はない
怪物は身体を揺らし、身体を貫いている氷の槍を強引に振り払った。しかし、貫かれたことによって空いた穴からは水銀のような液体が流れ始めた。おそらく、あの怪物の血液だろう
自らが相手にしている人物が強者だと、本能的に感じ取った怪物は、より強い怒号を上げて、その体温をさらに上昇させる
「くっ…まずい」
その灼熱地獄とも言えるような急激な温度の上昇に、俺は即座に対応、適応できず、膨大な熱気がこっちまで届いてきた
俺はやみくもに術式の出力をアップさせ、プラネタリウム内の温度を均衡させる。しかし、雑に術式の出力を上げれば消費魔力量も上がる
このままでは、あまり長くは持たせられない
そんな中、我が姉はあの熱気の中、余裕綽々で涼しげな顔をしている。そして、緩い感じで「そっちは平気?」と聞いてきやがった
「くっ…長くは持たせられそうにないよ! さっさと終わらせてくれ」
「はいはい、わかりましたよ~。それじゃ、ラルラちゃん、ちょっと手伝って」
「私ですか?!」
そこでようやく、隅っこで存在感を消していたラルラが、ひょっこりと前に現れてきた
その手にはペンタブが握られており、どうやら、俺たちが命のやり取りをしている中、後方でその激闘のインスピレーションを絵に出力させていたらしい
どうりで静かにしていると思った。芸術のためなら自分の命も、他人の命も、どうでもいいと思っている思想は変わっていないらしい
「手伝えって言っても、私はカキネやカゲリみたいに直接的な戦闘能力は皆無ですよー!」
「そういうのいいから。早く終わらせて欲しいうちの弟の要望のために『極楽万花』を展開して欲しいな」
「えっ『極楽万花』です? まあ、それならいいですけど、獣相手に意味ありますかね」
「これが、あるんだよね~」
「まあ、そう言うなら分かりました」
ラルラは持っていたタッチペンで宙に魔法陣を何重にも重ね描きをし、タッチペンでそれを地面にスライドさせて踏みつける
すると、魔法陣がプラネタリウム全体まで広がり、無数の光の花弁が舞い上がる
これが芸術家としてのラルラの切り札にして現状の到達点である表現魔術…
表現魔術という使い道が芸術作品に限られているから許されているが、レベル3魔術の4つ複合展開は普通に神業だ。高校生がやっていい次元の技じゃない
それもそのはず、ラルラも間違いなく天才ではあるのだ。ただ、その才能が表現魔術に突出していて、どんなものでも描けるけど、何を描けばいいのかを考える才能が無く、そこで折り合いをつけている
つまり、長所と短所が同じ領域内に存在するため、ネライのような躍進的な活躍ができない隠れ天才という訳だ
しかし、確かにラルラの言う通りで、この術は「ただ綺麗な花を咲かせる」だけの術…
芸術の分かる奴が相手ならば、まだ美しさに目を奪わせることができるが、相手は獣の如き怪物。効果があるとは思えない
可能性があるとすれば…あの怪物が「遠隔操作がされている」という可能性か…?
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