第20話 天体映写魔術
わたしの固有魔術理論である『
自然の星夜であれば、無尽蔵な星々による無限の魔力供給というチートを使えるが、星の中にはわたしに有害なものが多くて、無闇には使うことはできない
そのため、普段は解析の完了している使い慣れた星の力を使っている
そして、
この人口天体によって、わたしはこのプラネタリウム内であれば、リスク無く空間そのものから魔術を展開することができる
満天の星夜であれば、未知の星のリスクを考慮して空間そのものから魔術を使うことはできない。これは、わたしが精査し、使い慣れた星だけで作った人口天体だからこそ、使うことができる
「Guaaaaaa!!!」
怪物が獣のごとき叫び声を上げる。しかし、わたしは物怖じせず、1歩踏み出し、怪物を囲むように魔術を展開する
「
7つの絶対零度の光が水銀の怪物に向かって放たれる。最初の2発で足を凍らせ動きを止め、胴体に残りの5発を命中させる
「Guaa...」
表面部分を凍らせることはできたが、完全に凍らせることはできなかったみたい
水銀は約-38℃で凍る。私の放った極氷光は-273℃の絶対零度。普通なら急激な温度変化に耐えられず、自壊するはず…
いや、それは普通の水銀での話。あれは水銀の怪物、中に絶対零度に対抗しうる熱源を持っていてもおかしくわない。もしくは…
「Gaaaa!!!」
わたしが思考を巡らせていると、水銀の怪物が接近してきて、歌舞伎の如く髪の動かし刃の髪で攻撃を仕掛けてきた。深く思考する余裕はないみたい
後方全力バックジャンプでギリギリ回避することができた。あと少し胸が大きかったらヤバかったかも
まだ、敵の攻略法を考えるターンじゃない。今は、とにかく攻めて、受けて、敵の情報を集めるターン。でも、最低限の分析はできてる
1つ、あれは自然な生命じゃない。すくなくともこの時代で自然に生まれることのない生物。実験体というだけあって、人工的に作られたか、過去に存在した生物が掘り当てられ復活したのかのどちらかだと思う
2つ、あの怪物は現状、遠距離攻撃手段を持ち得ていないということ。髪を伸ばして触手のように攻撃してくることはあっても、自分の部位を飛ばすようなことや、魔術を使うことは無いと断定していいと思う
遠距離攻撃手段が無いなら、氷系統魔術で動きを鈍らせつつ攻撃、距離をキープしてさらに氷系統魔術で攻撃…その繰り返しが、安定した戦い型
「
氷点下の小さな天体を作り出し、周囲の温度を下げる。それと同時に、絶対零度とまでは言わないけど、-30℃ほどの無数の冷気の塊を、わたしを中心として公転させる
怪物にはあまり効果は無さそうだが、微かに動きが鈍いようにも感じる。そして、間違いなく後ろのラルラは寒そうにしている。ごめん、これ広範囲魔術だった…なんか、勝つまで我慢して
「Ga!!!」
再度、水銀の怪物が私に急接近し、鋭利に伸ばした爪で引っ掻いてきた。私は片足を後ろに下げて、その攻撃を回避する
すると、怪物は回避後の隙を狙って、回避の難しい広範囲近接攻撃である髪での薙払いをしてきた
だけど、事前にそのコンボを予測していたわたしは、薙払いを行う際に怪物が頭を横に下げた瞬間、怪物を飛び越えるように前方にジャンプし攻撃を回避
そして、すぐさま「極氷光」を使って攻撃を仕掛け、すぐさま距離を取り、余裕があれば追加で「極氷光」を放つ
ちなみに、氷系の魔術を使って戦っている理由は2つ。1つは、あまり物を壊さないから
もう1つは、水銀は蒸発しやすい性質があり、尚且つ人の身体には有毒な効力がある。すぐに即死するようなものではないけど、吸わないに越したことはないからね
怪物が接近して攻撃。わたしはそれを回避して反撃。そして距離をとって追撃し、それによる冷気で怪物の動きはより鈍くなっていく
怪物に新たな動きも無さそう。このまま戦い続けたらわたしの慣れない回避でボロがでそうだし、私の方から攻めてみようかな?
わたしは指を鳴らして「氷星運河」を解除する。そして、攻め手に回るための方程式をなぞり始める
「
「Gaa?!」
まずは重力で怪物の動きを抑制する。しかも、ただ重力を重くするだけじゃなくて、大気自体も重くすることで重さは2倍。消費魔力も多いけど、あの怪物が伏せて完全に動けなくなっている
片腕で重力を制御しつつ、もう片方の手に
「充分…かな」
星の光が充分な量圧縮されたと判断し、わたしは重力魔術で怪物を全方位から圧縮して動きを封じつつ、わたしの拳をぶつけられる丁度いい位置まで上昇させる
「Gu...Gaa...」
「2式魔術の複合は疲れる。だから、さっさと倒す」
わたしの拳から光が漏れ出す。正直、今の拳は冷た過ぎて感覚を失っている。だから、上手くグーを作れているか分からないね
水銀の怪物の腹部に拳をぶつける。そして、そこで手に集まっていた星の光を解放する…
「いけ…氷星運河」
拳の光が解放され、爆発するように天体が展開され、その衝撃で怪物は上方に吹き飛ばされ、わたしも後方に吹き飛ぶ
『氷星運河』は、寒い性質を持つ星の光で構成された、小さな天体を作り出す魔術。けど、その使い方じゃ攻撃性は高いとは言えない
だけど、それを展開する瞬間、天体を作り出した瞬間にだけ発生する現象は、わたしの誇る最高の攻撃手段の1つ…
星々の始まり…ビッグバン。小さい天体だから規模は小さいけど、確かに星が展開される際、それを散りばめるような発散反応が発生する
これが、今のわたしの持てる最高火力
倒せられたら…よかった…ね
「Guaaaaaaaaaaaaaa.aaaaaaaaaa!!!」
物凄い雄叫びが上方から放たれる。上を向くと、水銀の怪物は高温に熱されて、赤黒い色に変化していた
そっか…水銀の怪物って呼んでいたけど、そもそも、あれは水銀なんかじゃなくて、全然別の太古の物質だったんだね
「わたしはもう無理。ふふっ、やばい」
そんなことを口にしつつ、わたしはこの場所に近づいている、知ってる気配の存在に気づいていた
「今回も、普通の高校生に頼ることになりそうだね」
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