第4.5話 ちうかの診断後

「これで診断は終わりだ。何か聞きたいことはあるかい?」


 あをいは診断の終わりを告げ、端末を操作する。


「ところでさ、青っぴ」


「うん――っ!?」


 机を下から勢いよく持ち上げたちうかが、椅子に座っているあをいごと机を倒し、タブレットを奪い取る。


 横倒しになった机に座って体重をかけられる。手は机の下に入ってしまったが、肘より先が動くため机の足を掴んでどかそうとすると、その手を躊躇なく蹴られ、あをいは痛みに顔を歪める。


「この映像さ、私が椅子を持ち上げてるのはよく録れてるけど、青っぴをぼこぼこにしてるところは不鮮明だよね」


「……気づいてしまったかい」


「うん。襲われながらインカメラで、そんなに上手く録れるとは思えなかったからね」


「であれば、さっきの快諾も計算というわけだ」


「そう。お金がないとできないなら、盗めばいいだけだもん。地道に稼ぐよりお金のある家を襲った方がよっぽど効率がいいでしょ?それに、こんなに人目がある世の中で誰にもバレず二人きりになるって、やっぱり、チャンスだと思うんだよね」


 足は自由に動く。蹴り上げてつま先でちうかの頭を狙うが、足首を容易く掴まれる。


「鬱陶しいから折っていい?」


「……さすがに痛いからやめてほしいな」


「まあ、獲物を仕留めるときは足からだよね」


 躊躇なく折る構えになった――そのとき。


 何かに気づいたちうかが、机から飛び降り、その残像の上を椅子が通過する。


「何してるの」


 金髪に青いカラーコンタクトをした少女が、扉を開け放ち、立っていた。


きひろきいろ!」


「二人になっちゃったかあ。なるほどね、この子が人を通さないための護衛なんだ」


 きひろはレールから扉を外し、持ち上げる。


「きひろさん……?」


「面倒くさ――ってか、速っ」


 躊躇なく、扉でちうかの頭を狙う。が、ちうかもなんとか避ける。


「あんなの、当たったら即死じゃん。力強すぎでしょ……」


「人を傷つけるなら、傷つけられる覚悟もあるよね?」


 扉を構えて、ちうかを睨みつける。


「死ぬのは嫌だなあ。……本当に降参。こんなに強い護衛ちゃんがいるって聞いてないもん」


「じゃあタブレットを置いて、早く帰って」


「うん、そうする。青っぴ、またねー!」


 ちうかは床に端末を置くと、扉の外れた入口から走り去った。


「あをい、生きてる?」


「うん……あの、きひろさん。扉が怖いので、あるべき場所に戻してほしいです」


「……?うん。ここにある物の中なら、ホワイトボードの次に重いかなって」


「天然のフリとかいらないから。戻してきなさい」


「はーい」


 机をどけて起き上がり、あをいは肋骨の辺りをさする。きひろは自分の身長より大きな扉をあっという間にレールにはめる。


「起き上がれるなら折れてはいなさそう」


「……そうだね。強いて言うなら、心が折れそうだ」


「やめればいいよ」


「一番怖かったのはきひろだけどね。……助かったよ。ありがとう」


「終わったって連絡があったのに、すぐに出てこなかったから。何かあったのかもと思って来たの。正解だった」


 診断の終了を宣言してすぐに連絡したため間に合った。


「やはり診断士は一人ではできないね」


「これくらいならお安い御用。任せんしゃい」


「まったく、頼もしいよ」


 未来診断の最中は、診断士と依頼人以外の一切が立ち入れない。そのため、人払いのための人員が必要となる。この人員は診断前後の護衛も兼ねることが多く、あをいの護衛には、きひろがついていた。


「さて、帰ろうか」


「うん」


 椅子と机を戻し、消灯した。

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