第15話 はゆうの現在
診断士としての活動については隠しているわけではないが、特に広めてもおらず、十月になった今とあっても知らない生徒が大半だ。
紹介制であることも広まらない一つの理由として挙げられる。最初がきひろの紹介であったため、きひろと同じ美術部か、きひろのクラスメイトに限定されがちだった。
おかげで今やあをいは、自分のクラスよりもきひろのクラスのことに詳しくなっている。
「なあなあ、青っぴ!未来診断士の噂聞いたぜ!なんか面白そうなことやってんじゃん!」
弁当を食べているあをいの席の隣に珍しく、しゃがみ込んで話しかけてきたのは、あをいのクラスメイトだ。
「誰が青っぴだ、
「いや、攻撃力たけえな!?そんなに青っぴって言われるの嫌なのかよっ?」
「嫌だ。
面倒だから許可したという経緯はあるが。
「その
「……深山くん、女運ないね」
「なんで今ので分かるんだよ、すげーな未来診断士!でも、
「無理無理」
「んな殺生な!当たってみなきゃ分からんだろ!」
あをいは少し黙り込んで、顎に手を当てる。
「……未来診断士である僕には分かるのさ」
「なんだ今の間!何を考えた!本当はワンチャンあるんじゃないのか!?」
「僕には守秘義務があるからね。誰それの本質がこうこうだ、ということは本当に言いづらいんだよ。でもまあ、一つだけ言うとすれば」
「ごくり……」
いつの間にか立ち上がっていたはゆうは、その場にしゃがみ、生唾を飲み込む。
「深山くんの、何度砕けても折れない精神は素晴らしいと思う。それにきっと、君には、失恋したときに君を支えてくれる者がいるのだろう。それはとても、尊いことだよ」
「お、おう。なんか、照れるな……」
「だから大丈夫だ。時に、失恋の痛みや、友の力を借りながら、君のペースで邁進したまえ」
「お前……いいやつだな〜〜!!そんなわけで、当たって砕けるから
「アレだけはこの僕が認めない。転び方で例えるなら、笑顔で顔からすっ転ばされた先に画鋲が撒き散らされているようなものだ。破顔を通り越して修復不能なまでに引き裂かれる。わざわざ立ち直れない転び方をするのはオススメしないな」
あをいはミミズ腫れの見えかかっていたカッターシャツの袖を少し下ろす。
ちうかに食らった腕のミミズ腫れと、ゆもちに引き剥がされた手のひら。それを隠すために、今のあをいは長袖のカッターシャツと、白い手袋を着用していた。髪の毛をガムテープで抜かれた場所についてはきひろに無事を確認してもらっている。
大事になるのを防ぐべく、本当は首から吊り下げる必要のある利き手を、机の上に置くことで固定し、利き手でない方でノートを取っていた。
「そ、そうか……。まあ、お前がそこまで言うなら、やめておくかあー。学校一の美少女にして、学校一、交友関係の広い
「あの、深山くん。一つ聞きたいんだけど――」
と、あをいの視線の先には、ゆもちの姿が。
「すまないね。僕に用事みたいだ」
「おう、気にすんな!」
ゆもちの元に向かうと、指先でちょいちょいと呼ばれて、耳打ちされる。
「今日の放課後、待ってますね」
「約束どおりに。ところで、きひろは一緒じゃないのかな?」
「きひろちゃんは、
「分かった。続きは放課後に」
それだけを交わして、あをいは待たせたねと、はゆうが待つ自席に戻り、最後に取っておいた株の漬物を食べる。
弁当箱をしまうため、鞄に頭を近づけているとき、はゆうから耳打ちされる。
「実は、ここだけの話なんだけどさ。実はオレ――」
「蓮川さんも僕が認めない」
「なんで分かるんだよっ!?」
あをいの茶色がかった瞳がクラスを見渡してから、はゆうに耳打ちする。
「アレは普通に転ばせるよりもたちが悪い。何度も何度もわざと踵を踏んで躓かせてきて、歩くことに対しての恐怖を植えつけて喜ぶタイプだ」
「いや、何があったんだよっ!?冗談にしてもきついぜ……。今見た感じも、真面目でいい子そうだったけどなあ。まあ、お前がそう言うなら、やめておくかあ」
「――さっきの続きだけど、一つ聞きたい。深山くんはなぜ、他の大多数の友だちより僕に意見を参考にするのかな?」
「そういうお前は、どうしてオレに親切にしてくれるんだ?」
三白眼があをいに問いかけた。
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