未来診断士

さくらのあ

アレルギー

「ねえ、未来診断士さん。あたしのアレルギー、どうしたら治るかな?」


「……僕は、占い師でも、医者でも、薬剤師でもない。特別な力は何もない、ただの人間だ」


「あはは。そうだった、ごめんごめん。でも、あたしのアレルギーってさ。占い師でも、医者でも、薬剤師でも、特別な力を持った人がいたとしても、治せないじゃん」


 未来診断士は、女から目を逸らす。机のない椅子が二つだけの、二人きりの教室で、向かい合って、沈黙する。


「あたし、これからどうしたらいいかな」


「ずっとここにいればいいさ」


 女が口角をにっと上げる。


「えー、じゃあ、ほんとにそうしちゃおっかなー」


「僕はそれでも一向に構わない」


 診断士の茶色がかった黒い瞳の強さに、女がしばし、言葉を失う。


「……あはは、ほんとにー?って、ごめんごめん、冗談だよね。まあ、アレルギーって言っても、死ぬわけじゃないんだし。そんなに心配しなくても大丈夫だよ」


 診断士は丸見えの膝の上で、爪の跡がつくほど、拳を強く握りしめて、言う。


「――君はすごい。すごいんだよ。君は何も悪くないし、むしろ誇っていい。堂々としていればいいんだ」


「そうだね。……あ、外、だいぶ暗いね。そろそろ、帰らなきゃ」


 立ち上がり、鞄を肩にかける女に、診断士も続く。


「家まで送っていこう」


「え、いいよいいよ。申し訳ないし」


「……ごめん、そうだね。では、先に帰らせてもらうよ」


「あはは、君は優しいね。優しすぎるくらいで心配だなあ」


「最後まで、何も力になれなくて、申し訳ない」


「えっ、全然、そんなことないって!元気出しなよ!聞いてもらえただけですっきりしたんだから。ねっ?」


 扉を開けた診断士は、外へ踏み出す前に、言う。


「明日も、ここへ来てくれるかい?」



 女は、三分、何も答えなかった。



「……分かった。また明日ね!」





 翌日、二人が会話を交わすことはなかった。


 ――それは、とある未来診断士の最初のお仕事だった。



 未来診断士とは、主に、未来に悩める人たちの性格や特性、趣味嗜好を分析し、導くお仕事。


 彼らには三つの義務が課せられている。


 依頼人と診断中に話したことを、決して、誰にも明かさない、守秘義務。


 子どもから大人まで誰しもを平等に診断するための、対価を求めない義務。


 ――そして、公平な視点で診断をするための、依頼人と必要以上に関わらず、特別な人間を作らない義務。

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