第13話 ゆもちの弱点
「わっ――」
あをいが勢いよく、全力で投げたタブレットを、ゆもちはかわす。
――直後、爆音を立てて、床に落ちる。
ゆもちが机を落とすほどの爆音に振り返るとそこには――教卓の前に落ちたタブレットがあった。教卓の下は空洞になっており、固いものをぶつけると音がよく響く。
「なかなかに、激烈だね……っ」
あをいは脱臼した右手を左手で膝の上に置き、出血する手のひらを見もせずに、押さえる。
「え、あの、い、いい今、何をしたんですか……?」
「君の行動にはもう一つ、不自然な点があった。――なぜ僕を狙ったのか、ということだ」
廊下を走る音が近づいてくるにつれて、ゆもちの顔から血の気が引いていく。
「あをい!」
大きな音を聞きつけて勢いよく扉を開いたのは、きひろだった。
「きひろ、ちゃん……。で、でも、ここで起きたことは、誰にも、話さないって……」
「何を言ってるんだい、蓮川さん?何がどうしてこうなったのかは、僕にはよく分からない。そしてきひろは、たまたま、偶然に、ここを通りかかっただけだ」
きひろの青いカラコンが、ゆもちを見つめると、ゆもちは視線を露骨に逸らす。
「き、きひろちゃん……。えと、こ、これは……」
「あをいに、怪我をさせたの?」
「えぅ、あ、ぁ……」
顔を真っ赤にして、ゆもちは俯き、黙り込んでしまう。
「きひろ。瞬間接着剤を剥がす方法をスマホで調べてなんとかしてくれ」
「気合と根性」
すたすたと、あをいの元へ歩いていくきひろ。
「え。いや、待て。多分、有機溶剤か何かで溶け――」
「えいっ」
ビリッと、肩が脱臼するほど貼りついていたカッターシャツが、無理やりに椅子から引き剥がされる。続いて上履きも無理やり剥がされ、靴底だけが床に残る。
「えいやの、せーいっ」
そして、瞬間接着剤で床にくっついていた椅子ごと、あをいを持ち上げた。
「……ありがとう」
「嫌そうな顔」
そのまま運んでいこうとするきひろを断り、底の抜けた靴であをいは立つ。
椅子の背もたれには、カッターシャツを破いた布切れが残っていた。
「ど、どうして、きひろちゃんをここに呼んだんですか……!?」
「何のことか分からないが、君の過去、現在を通して診る未来の話をした時点で、診断は終わっている。その内容については僕と君の間の秘密だが、君の趣味に付き合う義理はないからね」
「でも、最初の問いかけに対する答えを、まだもらってない、です……」
ゆもちの最初の問いかけ。「自分はどうしてこんな風なのか」ということ。
「答えは十分、与えたつもりだ。それでも納得できないなら、また明日にしよう。あいにくと、今日は放課後に用事があってね」
きひろが鞄から袋を取り出し、壊れたタブレットと破片を拾い集める。それが終わると、あをいの鞄をひょいと持った。
「その手のまま行くの?」
「さすがに包帯くらいは巻いていくよ」
「包帯で済む?きひは病院行きだと思うけど」
あをいは押さえている左手をそっと外してちらりと右の手のひらを見やり――すぐにまた左手で押さえた。
「でも、放課後に約束が……マカロンが……!」
「あ。ねー、ゆもちゃん」
「な、何、きひろちゃん……?」
視線を四方八方に動かし、後ずさりながらゆもちが尋ねる。
「お昼のマカロン、どうだった?」
「え、あ、ああ。美味しかったよ、すごく。サクサクで、ぶどうの甘い香りがして」
「うん、美味しかったね。すごく」
呆然と立つゆもちを置いて、きひろとともにあをいは去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます