第6話:抱くとか抱かないとか・・・。

昼間は狐には会えないってことだから絵馬の母ちゃんとも会えない

だろうと思って、それじゃ〜って言うのでタクシーの運ちゃんに絵馬待望の

旅館へ走ってもらった。


ここでキツネの関所のいわれを言うと・・・、


ある夜更けのこと。

酔っぱらった男が土産を首にかけ家路についていた。

関所の前を通りがかった時、美しい女が男に声をかけるじゃないかよ。


「あたたかいお風呂に入ってらしてくださいな、お酒も召し上がって」

「それは、ありがてえ」とばかりに色気と呑気を出した男は女の後を

へこへこついていった。

で、翌朝目を覚ますと、女の姿も家もなく男は肥溜めに浸かっていて

土産はなくなっていた。


狐に化かされたって話のひとつだね。


絵馬の父ちゃんがなんで遠野なんかに来たのか、それは分からないけど、

父ちゃんも夜、キツネの関所に来たんだろう・・・。

その時、きっと美女に化けた狐の母ちゃんに会って惚れられたんだろうな。

だから父ちゃんは騙されず、肥溜めに落ちることもなかったんだ。


狐とエッチしちゃった絵馬の父ちゃんが生きてたら、もしかしたら俺と話が

合ったかもな。

案外父ちゃんも妖怪好きだったのかも。


さて旅館に到着して観光タクシーはそこまで・・・まあもうタクシーは

いらないだろう。

狐の関所までは旅館から歩いても30分もあれば行ける。

旅館で懐中電灯でも借りて歩いていけばいい。


絵馬のご希望通り、俺たちは温泉に浸かって、旅館の名物を食って夕方旅館の

周りを散策してみた。

古い建物が立ち並んでいてノスタルジック満載・・・俺はそういう

風情も好きだ・・・田舎に移住しようってハラはないけど、田舎はいい。

年寄り臭いって絵馬に言われた。


さて日も暮れて狐に会うにはちょうどいい頃合い。

絵馬にそろそろ母ちゃんに会いに行くか?って誘ってみた。


「え〜・・・私、疲れちゃった・・・」


「なんだよ、せっかく絵馬のためにここまで来たのに?母ちゃんに会いたく

ないのか?」


「私のためって言うか、五六ふかぼり君が来てみたかったからでしょ?」

「私のお母さんにかこつけて・・・」


「どっちにしたって会いに行かなきゃ・・・」


「そんなこと言ったって、向こうだって迷惑かもしれないじゃない・・・

いきなり娘ですって訪ねて行ったら・・・」

「お母さんだって家庭があるかもしれないでしょ?」

「旦那さんも子供もいて幸せに暮らしてたらきっと私なんか訪ねて行ったら

迷惑だよ」


「すごい妄想だな・・・なんでそんなことが言えるんだよ」


「って言うか・・・私もう体が動かないよ・・・」


「そんなに疲れてるのか?」


「うん、もう一歩も動けない」

「そうか・・・分かった、絵馬が母ちゃんと会えたら、そのお祝いに

この雰囲気のいい部屋で絵馬を抱いてやろうかな〜って思ったんだけど・・・」

「無理みたいだな」


「え?そんなこと聞いてないけど・・・」


「そんなの言うわけないじゃん・・・サプライズだよ」

「俺の部屋でなんかエッチするより旅館のほうがいい記念になるかな〜って

思って・・・」


「はあ・・・そうなの?・・・あの大丈夫だよ、私・・・」


「動けないんだろ?」


「狐パワーで復活するから・・・私、回復力めちゃ早いから」


「じゃ〜絵馬の母ちゃんに会いに行けるよな」


「なら約束してくれる?・・・私がお母さんに会いに行ったら、間違いなく

私を抱いてくれるって・・・エッチするって」


「そんなに俺に抱いて欲しいの?」


「じゃなきゃ、わざわざ苦労してラブドールになんかならないよ」


つづく。






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