第5話:キツネの関所。

な訳で、俺と絵馬は岩手県へでかけた。

目的地は岩手県遠野市。


絵馬は出発時駅で買った駅弁を電車の中で美味そうに二個も平らげた。

そして電車に揺られて遠野に着いた頃はもう昼過ぎだった。


これからあちこち巡らなきゃいけない・・・だから歩いてなんか巡ってたら

どこへも行けないうちに日が暮れてしまう。


そこで遠野駅で観光タクシーを拾った。

道すがら絵馬の母ゃんに会いに行く前に「とおの物語の館」ってところに

先に足を運んでみることにした。


「とおの物語の館」ってのはこの地にあった造り酒屋の蔵を改築したそうで

中に入ると広々とした蔵の中は、まさに昔話の世界が広がっていた。

遠野地方に古くから伝わる昔話を紹介しているんだ。

座敷ワラシや河童、狐の妖怪に雪女などの話を切り絵やイラスト映像などを

使って紹介している。


我々はより多くを

聞かんことを切望す。


願はくは之を語りて

平地人を戦慄せしめよ


遠野郷には妖怪の物語が数百件あるらしいのだ。

映像ライブラリーや絵本コーナーも設けられていて「遠野物語」の世界に

出会い体験し心豊かな時間が過ごせるようになっていた。

マニアにはたまらない空間。


絵馬はボケ〜っとして眺めていたけど、さして興味もない様子だった。


「退屈・・・五六ふかぼり君、早く出ようよ・・・陰気臭い」


「絵馬だって半分妖怪なんだから、もうちょっと興味持てよ」


「私は五六ふかぼり君みたいに妖怪オタクじゃないから・・・私が

半妖だからって興味があるだろうって思うのは五六ふかぼり君の思い込み」

「こう見えても私、都会っ子だからね」

「アナログじゃなくデジタルだから・・・」


「俺だってそうだよ」


「早く私のお母さんに会いに行こうよ・・・そんでさ、お泊まりするなら

旅館で温泉に入って美味しいもの食べようよ・・・でエッチ」


「分かったよ・・・まあ、目的は絵馬の母ちゃんに会いに行くことだからな」


民俗学者の柳田國男の書籍『遠野物語』は多くの人々に読みつがれていて

その中に河童にまつわる話も数多くある。


だから俺は河童伝説で有名なカッパ淵へ行ってみたかった。

だけど絵馬がめちゃ退屈そうにしてゴネるから予定を変更して、絵馬の

母ちゃんと会えそうなキツネの関所なる場所へ行ってみることにした。


俺の行きたかったカッパ淵から市内に向かう道中に小さなモニュメントが

あってそこがキツネの関所だとタクシーの運ちゃんが教えてくれた。


「あのさ、狐に会いたかったら昼間はダメだよ・・・関所へ行くなら夜だね

夜、関所に来た時、運がよかったら狐火が見える時があるから、それに声を

かけたら狐の妖怪に会えるかもよ・・・会えない時もあるらしいけど・・・」


運ちゃんがそう言った。


つづく。


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