イレギュラー③


 あたしたちが入ったのは、昨日と同じでちょっと値段の高いファミリーレストラン。



 昨日行ったのと同じチェーンの違うお店。



 いつどこで誰に見られるか分からないからこその店選びだったんだろうけど、奢る立場から言わせてもらえば、ファストフード店でもよかった。



 わざわざお店の一番奥まった所に席を取った井上先生は、店内の方に背を向ける席に座る。



 そこまで気になるなら奢られずに帰ればいいものを、そこはきっちり頂いてから帰るらしい。



「何食うかな」


 席に座って早速メニューを開いた井上先生は、「昼から肉ってのもなあ」って言いながらステーキのページをじっくり見てる。



 財布にいくら入ってるか不安になってきたあたしは、逃げて帰りたくなった。



「なあ、お前」


「はい」


「名前何だっけ?」


「藤堂藍子です……」


「藤堂な、藤堂。――で、お前何食う?」


「あたしはドリンクバーでいいかなって……」


「は? 何で?」


「そんなにお金持って来てないし」


「はあ?」


「井上先生に奢るのがいっぱいいっぱいの気がするから、ドリンクバーでいいです」


「お前、バカじゃねえの」


「はあ、そうですけど……」


「俺がマジで高校生に奢らせると思ってんのかよ」


「はい」


「うっぜえ! このバカうっぜえ!」


「はあ……」


「高校生に奢らせたりしねえよ。奢ってやるから好きなもん食え」


「じゃあ、遠慮なく」


「ああ」


「ステーキセット」


「……お前、なかなかのツワモノだな」


 呆れたような感心したような、何とも言えない声を出した井上先生は、すぐに店員さんを呼ぶとステーキセットとドリンクバーをふたつずつ頼んだ。

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