第10話

「先生、この本返したくないです……っ、その代わりに、これをあげます」



半泣きになりながら、文庫を胸に抱きしめ、鞄から昨夜したためた手紙を、半ば強引に先生の手に押し付けた。



「……これは?」



「私も、今日で最後だから、恥を描こうと思って……」



私の目の前で、手紙を読みだした時は流石に先生から体ごと背けてしまった。


だって恥ずかしすぎる。


でも、直後に後悔した。


どんな顔で読んでいるのか、見ればよかったって。



「俺、てっきり振られたつもりでいたから、正直半端なく動揺してるよ」



細く、小さく落ちた声音は、ほんの少し震えているようにも感じた。


振り返って、真っ直ぐ先生の顔を見上げた。


そして徐に口を開く。



「本当は、今日でお別れのつもりでいたんです。でも……」



こんな風に、お互いの気持ちを知ってしまったら、さよならなんてしたくない。


先生は……どう思っていますか?

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