第9話

言われてみれば、いくつかのページに鉛筆で文字に丸がついていたっけ。


けれどそれが何か意味を持つなんて考えたこともなかった。



「いいんだ、もう。じゃあ、これは返してもらうね」



そう言って寂しそうに笑った先生の手から、奪うように文庫を引き取った。


裏表紙に書かれた数字を見て……。


次々にページをめくる。



「せん、せ……?」


「目の前で読まれるのは、恥ずかしすぎるんだけど」


「嘘……だってそんな……」



うまく言葉にできない。


だって、こんな事、全然気付かなかった。


こんなところに、先生からの手紙があったなんて。



「分かってる。俺は大人だからね。引き際は分かってるつもりだ。でも、もし、君が本当は気付いていないのだとしたら……」



今日で最後だから、恥を描こうと思ったんだと苦笑する先生。

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