第5話

先生は、とても穏やかで物静かな人で。


いつも周囲を賑やかな人達に囲まれていた私には、先生のような存在は、とても遠い人だと思っていた。


本当はたくさん喋ってみたかった。


でも、ろくに話もできなかった。


先生が紡ぐ言葉をただ聞いているだけで精一杯だった。


先生がポツリポツリと落とす言葉の音は、まるで降り始めたばかりの雨粒が葉を叩くかのような優しい音で。


ただ立っているだけなのに、その空間だけがとても穏やかで。


賑やかなクラスメイトとは違う、大人の雰囲気を醸す彼の、声も、表情も、立ち振る舞いも、先生のことを知るたびに、その全部に惹かれた。


今日で最後。


もう会えなくなる。


だから、もっとたくさん話せばよかった。


多分先生なら、他愛の無い、つまらない話でも、きっと黙って聞いてくれたに違いないのに。

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