第5話
「……おは、よ」
逸る気持ちのまま駆けてきたから、息が上がってクラスメイト達に返す声は掠れてしまった。
教室を見渡しても、東条くんの姿は見えなかった。
あ、バレー部の朝練かな?
東条くんは男子バレー部で、ウイングスパイカーっていうポジらしい。
バレーのルールを知らない私も、応援に何度か行ったことがある。
みんなと行く時は皆と一緒に声を出して応援をする。でも、1人で行く時はこっそりと。
バレーをしている東条くんはすごくカッコイイ。
一緒に応援に行くと、皆エースである3年の先輩の事をカッコイイっていうんだけど、私の中では彼が一番カッコイイ。
ボールを取りに行く姿勢が、いつだって一生懸命で、誰よりもやる気にあふれている。
1年の時から、2年や3年の先輩と一緒に試合に出ていることもあった。
ボールが取れなかった時や、エラーをした時の悔しがり方も、一生懸命だからこそのオーバーリアクションだと思うと、可愛くて仕方ない。
いつから彼のことが好きだったのかと聞かれたら、多分あの日だと言える出来事があった。
高校の入学式で「よろしくな」と言ってくれた彼の事を、なんとなく目で追うようになったのは自然の流れだと思う。
1年の時のクラスは、みんなノリがよくて、クラスで行う催しものは男子も女子もみんなが仲良く盛り上がった。
だから、中学の時は女子としか喋ることがなかった私も、クラスの男子となら普通に喋れていた。
勿論、東条くんとも。
高校生ともなれば、皆声変わりしてお父さんの声みたいに低い声ばっかりで。
そんな中で、東条くんの声は少しだけ高くて、よく通る。
一番響くのは、クラスの中でじゃなくて、バレーのコートの中でなんだけど。
その声のトーンが違和感なくスッと耳に入ってくる。
そして、「結城」と呼んでくれると、胸の奥がキュッとなって苦しいんだか、嬉しいんだか分からなくなる。
あの日も、そんな声で私の事を呼んだんだ。
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