第6話

「結城、文化祭の買い出し、付き合ってくれない?」



衣装係だった私と、舞台美術の係だった東条くん。


買い出し係は前日にすべての買い物を済ませていたはずで、「?」の私に、彼はこそっと耳打ちしてきた。



「買い出し係が買い忘れた物があるみたいなんだけど、部活があるからいけないって困ってるからさ、俺が行くって言ったんだ。でも、女子の目もあった方がいいと思ってさ」


「そうなの?別にいいよ。付き合う」



そう、大したことないっていう風に答えたけれど、内心は心臓バクバクだった。


どうして、他の誰かじゃなくて、私に頼んできたのかなって思って。


2人きりで買い物に行くなんて、たとえそれが学校の行事の為だとしても、なんだかデートみたいだなって思ってしまった。


日曜日、2人で買い物に行く約束をして、連絡のやり取りのためにメールアプリのアドレスを交換して。


初めて私のメールアプリに入れた男子のアドレスが、東条くんのものだなんて、すごく緊張した。


その日を切っ掛けに、割と頻繁にメールが届くようになった。


何気ない日常の、挨拶や、「いまなにしてる?」なんて言葉から始まるやり取りも、全部が私だけの特別だと思ったら、やっぱり、嬉しくてドキドキして、一気に想いは膨らんでいったんだと思う。


2年で同じクラスになった時は、泣きたくなるくらい嬉しかった。


また近くで彼の事を見ていられるんだって。


1年の時に同じクラスだったみんなとは、自然といつも固まって話していて、その中に東条くんもいて、休みの日にはみんなで遊びに行くこともあった。


少しずつだけど、彼との距離が縮まっていくような、そんな毎日が楽しくて嬉しくて、幸せだった。


1年では帰宅部だった私は、2年の春に担任に勧められて園芸部に入った。


昔から土いじりが好きだったし、少し寂しいうちの学校の花壇を花いっぱいにしたいとも思ったから、園芸部はとてもやりがいがあった。


丹精込めて手入れした花壇を見てほしくて、東条くんをその花壇へ案内した。


そうだ、あの向日葵が咲く花壇に。


彼は、自分を超える程の高さに育った向日葵を見上げて、眩しそうに見ていたっけ。


そんな彼の横顔に、向日葵が太陽に恋焦がれるように、私もまた焦がれたのだ。

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