第3話

いつもより早く目が覚めた私は、未だ夢か現かと昨日の事を思い出しながら、部屋の机の中から、ラミネートされた1枚の写真を取り出す。


東条くんと同じ中学だった友達から、譲ってもらったものだ。


修学旅行で撮られたものらしく、彼は2人の男子生徒と肩を組んで笑顔で写っている。


幼さの残る彼の表情は、気の置けない友人達との旅行にとても楽しそうだ。



「可愛いなぁ……」



この写真を見るたび、自然と顔が笑ってしまう。


普段見る彼とは違う。なんだか、自然体の姿が可愛くて仕方ない。


でも、この写真を私が持っていることは秘密。


バレてしまったら、きっと、気持ち悪いって思われるに違いないから。


でも……、私の事を好きだって言ってくれた今なら、私がこの写真を持っていたとしても……。


もしかしたら、笑って許してくれないかな?



「ほたる~、朝ご飯できてるよ」



階下から響く母の声に、勢いよく返事をする。


写真を元の場所にしまってから、私はリビングへ降りて、私を呼んだ母や、新聞を読みながらこちらに視線を向けた父、今年の春中学生になった弟の倫(りん)に挨拶をした。


リビングのテーブルには、毎朝のテンプレート、トーストにハムエッグに生野菜のサラダが4人分並んでいる。


戸棚から自分のマグカップを取り出してコーヒーを注ぐ。


いつも通りの朝だった。


でも、いつもとは違う朝。



「ほたる、何ニヤニヤしてんの?キモイ」


「んー?別に」


「別にって、絶対違う。なんかあったんだろ?」



突っ込んで聞いてくる倫を無視してコーヒーを飲む。


高校2年になる頃から、なんとなく飲めるようになったブラック。


今日はなんだか甘くも感じる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る