第5話

「どうしたら、この鬱陶しい告白地獄から逃げられるんだ?」

 「そりゃ、彼女になりたくて告白してくるんだから、彼女がいれば告白する女子もいなくなるんじゃないのか?」



 さっきから春織の愚痴に付き合っているのは、同期の加茂川かもがわ礼司れいじだったらしい。


 研修時代も彼はグループの司令塔であり、仲間達の愚痴や悩みをよく聞いていた。春織とは同じ場所に配属になったから、今もこんな風に友人達の愚痴を聞いてあげているのだろう。

 

 そんな加茂川の、至極当然の答えに春織は大きくため息をついて階段に崩れ落ちた。


 扉の隙間から覗いていた私は、残念ながら春織の表情迄は見ることができない。


 

 「……なら」

 「は?」

 「俺のこと嫌いなヤツと付き合いたい」

 「はぁ?」


 

 なんじゃそりゃ!


 心の中で叫んでしまった。声に出さなかった自分を褒めてやりたい。



 「俺を嫌いなヤツとなら、もしかしたら付き合えるかもなって言った」

 「自分のことを嫌ってるヤツと付き合うなんて、付き合う意味があるのか?」

 「付き合っている相手がいるなら、告白しようなんてウザイヤツがいなくなるなら、今すぐにでも付き合いたい。俺のことが嫌いなら、俺を束縛することもないだろうし、うるさいことも言わないだろ?」

 「何、その都合のいい考え。そんな相手いるかよ」


 

 加茂川は呆れ果てている。


 確かに呆れる。そんな理由で付き合うなんて最低だと思う。


 だけど、難攻不落の春織 優斗と付き合えるなら……。


 偶然だけど、こんな場面に遭遇したのは、普段から色っぽい話とは無縁の私に神様が与えてくれた最初で最後の奇跡だとすれば……。


 幸いこの話は私しか知らない。他の女子は誰も、彼が望む恋人になるための条件『春織優斗を嫌いなヤツ』ってことを知らない。


 そんなことを考えながら、ふと始業時間が近づいていることに気づいた私は、2人に気づかれないように扉から離れて、本来の目的地であるロッカールームに急いだ。


 だから、私が去った後で2人が話した内容を私は聞くことができなかった。



 「けど、お前のことを嫌いな女子なんているのか?現実」

 「いる」


 

 春織の即答に加茂川は意外そうな顔をしながら、俯いたままの春織に視線を向けた。



 「アイツだけは……最初から俺に興味なくて、俺以外の男としかまともに話さない。だから、きっとアイツは俺のこと大嫌いなんだよ」

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