第6話

✳︎



 春織の彼女になる為には、彼のことを嫌いだとアピールする。


 この時の私は、この条件がどれだけ馬鹿馬鹿しく意味のないことなのか気付けなかった。


 春織は、初めて一目惚れをした相手であり、けれど私がどう足掻いても彼の恋人になれるはずなんてないと早々に戦線離脱した相手。


 研修の時の、同じグループだったあの時だけはまともに会話もできていたように思うけれど、部署が別になって話す機会もなくなって。


 多分彼の中での私の位置は、同期にそんな奴がいたなってレベルだとおもう。


 でも、そんな私にももしかしたら春織の恋人になれる可能性があると知ったら……まともな思考ではなかったんだと思う。


 始業開始の時間になって、締め切り近くの自分の仕事を終わらせてから、担当者なしの用件を一つ、二つとこなしていく。


 指示された内容に書類をまとめるものばかりだったから、目はパソコンの画面を見ていたけれど、頭の中はどうやって春織に自分が彼のことを嫌っているのかを知らしめればいいのかばかり考えていた。


 そしてその日のランチタイム、その好機は突然やってきた。



 「もう、春くん冷た過ぎ!ヒドイよ。振るにしたってもっと言い方ってものがあるじゃない」



 職員食堂に入るなり、数人の綺麗どころが固まっていて、その中の一人が泣きながら春織の文句を言っていた。


 これってグッドタイミングってやつなのでは?


 この話の中に入って、一緒になって春織の事を悪く言えば、私が春織のことを嫌いだとみんなに知られることになる。


 そうすれば、そのことが春織にも伝わるはず。


 さりげなく彼女達のテーブルに近付いて、話を聞いていた。同調するにもタイミングがいるのだ。


 

 「イケメンだけど、仕事ができるけど、恋愛に対しては絶対イヤなヤツ」

 「営業先の女性社員のこともこっ酷く振ったらしいよ」

 「えー、仕事貰えなくなったらどうするのかな?」

 「そこはあれよ、美人局的に仕事の契約がうまく行くまではいい顔して、うまく行ったらポイッてするんじゃない?」

 「嘘だぁ……幻滅」


 

 同調するつもりだった。


 だったんだけど、彼女達の根も歯もない噂話には、正直腹が立った。

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